七百九生目 国家
内心私がめちゃくちゃドン引きしている。
そしてちらりと月組の面々を見ると顔を引きつらせていた。
良かったどうやらちゃんと苦手らしい。
都ではあれが一般的ですと言われたらどうしようかと思ったもの。
冒険しすぎている。
そんな普段からファッションショーで見せる格好みたいな服しない。
一方仮面の女性は一切気にする様子がない。
お付きの方を下がらせて優雅に歩く。
私の対面まできて無遠慮に座り込んだ。
それを見てから時が再度動き出す感覚。
なんだか一瞬でいて長かった……
座ろう。
扉が2度強めに閉められる。
外界と結界で隔離された……
これで覗き見は最悪見つかるだろう。
対面の女性は無遠慮な視線を仮面の向こう側からこちらに向けてくる。
種族的にトランスすると仮面をつけるときもあるけれどそういうのではなさそうなんだよな……
それとニンゲンってわりとある程度こなれるとニンゲンがよりベースのニンゲンとして姿を元々の姿に抑えられるらしいからあまり見た目は参考にならない。
仮面越しでもわかるほどに不敵な笑みを浮かべる女性。
場の空気は彼女が支配していた。
すぐに彼女の前に側仕えがお茶を差し出す。
あまりに自然で美しい仕草でお茶を飲み。
笑顔とはまた違うにおいがほんのわずか蠱惑的な香水のかおりにまざった。
その口が言葉のために開かれる。
「ワタクシ、花組のコヨリなのよ。よろしくなのよ」
鈴の転がるような声とはこのことか。
1発で聞くものを惹き付ける声。
おそらくニンゲンが得意とするトーク系スキルの常時発動型と自前の腕前そしてなにより天賦の声。
恐ろしく強力だ。
たやすく心に指をかけるかのように。
これが演劇ならば聞き惚れていれば良いのだろうけれど
「花組……ですか? おっと失礼しました、私はアノニマルースのローズオーラ、指示に従いここへ馳せ参じました」
「花組とは、平民……いえ、一般的な人々と関わりがないですが、わたしたちの組織、月組と並ぶ1つです。花組は晴れやかな部隊で権力者たちに対してあたる者たちです。そして彼女はボナパルトコヨリです」
「んもう、平民とかファミリーネーム言っちゃうとか部隊とか、ハイカラではない、ハイカラではない。そんなんじゃないなのよ、ワタクシたちはチーム。そしてファミリーなのよ!」
「え、ええ……?」
さすがに困惑を隠しきれないよ。
皇国はファミリーネームは先になる。
ただファミリーネームが皇国っぽくないな……ハーフかな?
テンションが高めに対応がされ逆にシックでシンプルな出で立ちのランムさんは引いて呆れ気味だった。
「さて!」
「は、はい」
いきなりこっちに顔を戻されてビビった。
「短く簡潔にまとめるのがハイカラなのよ。というわけで、コ・ヨ・リからはこれを贈呈します」
「う、承りますコヨリ様」
めちゃくちゃ下の名前で呼べと強調された。
あと奇天烈な格好をしているけれど動作や根の雰囲気はなんだかしっかりしているんだよなあ。
外側が全部ポワポワしているんで無効だけど。
これと言われてもコヨリさんが直接出してくるわけではない側仕えのニンゲンからもらえる。
つまりコヨリという高貴なる者? から渡されるという事実のみが大事であって直接渡さないのは昔からよくある立場をわきまえるための行為。
ぶっちゃけ暗殺チャンスがすぎるのでね……
受け取った書状。
……ちょっと何書いてあるかわかりませんね。
文字が読めないとかではなく。
「あの、なんなのですか、この家系図は……」
「見ての通りなのよー、貴方に用意された家系図……先祖代々記されてきた貴重な品よー!」
「そ、それって、生まれの偽装……!」
家系図をざっと見るにとんでもないことになっている。
この『神話ってとんでもない生物と神とニンゲンがなんか子供つくってますけど何か?』みたいなノリがそのまま再現されたかのような家系図。
荒唐無稽にもほどがある血の道だった。
え? しかもえ? なにこれしらん。
国籍も種族もめちゃくちゃだぞ。
「聞いのよー、本物の神様になったんだって? 凄いのなのよ」
「な、んで!?」
一瞬反応が遅れた。
今の情報は……確かに秘匿しているわけとは違う。
知られても危機はない。
しかしその情報は極々一部にしか出回っていない。
わざわざ言わないからだ。
勝手に信仰されているのをみるのと『神』という存在になったと見るのとでは……訳が違う。
そこで動いたのは後方に控えいた月組ランムさん。
「確かに情報は誰も漏らしていませんよ、安心してください。そして、わたしたちは出遅れたとはいえ……情報収集をやりはじめれば、ある程度は形になりますから」
恐るべし国家機関。




