七百八生目 蠱惑
武技"連牙"の最大な特徴としてはくせが薄く繋ぎになれるということ。
武技というのは特定の動きを誘導されるためスキもそれ相応に生まれる。
しかしこれは武技としてはとても弱い。
単なる速さ重視で威力を落とした2連撃をお見舞いする武技だ。
ただしどこからでも繋げられる。
これを理解するとめちゃくちゃ面白い。
通常から"連牙"そして通常でもいいし。
通常"連牙""回転切り"でもいい。
通常"回転切り""連牙""波衝斬""龍螺旋"という武器の枠をこえた超連続攻撃を使えるのはロマンがある。
キャンセル武技というものだ。
前の行動を無理やり後スキだけ潰してさらに武技をつなぐ。
たまに敵がやってくるえげつない動きはこれによるもの。
武技が動きを誘導するゆえに扱える動きだ。
練習していかないと私が振り回されてしまいそうだ。
そうこうしていたらあっという間に予定日。
街へ赴いて拝領を受けねばなあ……
アノニマルースから出て荒野の迷宮の外。
近くの山はすっかり整備されて直接行くことも楽だしワープの輪もいまだ設置してある。
係の者がいるからね。
そしてそこよりも……先。
平原をしばらくいけば都市が現れる。
すっかり私にはおなじみの街だ。
私の冒険者としての始まり。
最近では魔物がここに増えてきている。
前は魔物といえば危険か家畜の2択だったニンゲンたちの環境。
ここでは受信機リングを自身の身分証明として高らかに掲げている。
街側も少しずつ受け入れ準備が出来だしたわけだ。
そして所属している民間グループの冒険者ギルドもある。
クーランの銀猫だ。
昔は宿借りの小規模ギルドだったが既に今では国内有数の超大手筆頭ギルドになってきて建物1つたっているらしい。
しかも大きな機能のいくつかを都にも移設して建設している。
私が引っ張ったことは引っ張ったのだがそこからトップ民間ギルドになるのはまた手腕の問題。
そんな支部なのか本部なのかわからなくなったクーランの銀猫建物へと私は来ていた。
政治のことなのに身内の施設でことを済まそうとするあたりがもうきな臭い。
唯一昔から変わらないマークのかかれた扉をあけて中に入った。
施設としてはあくまでクーランの銀猫ギルドは形としてはいわゆる会社である。
しかもここに来るのは依頼をしにきたものというのは少ない。
いないわけではないがまず冒険者ギルドに投げることが多い。
つまり業務員たちがほとんどを占めていたわけで。
中に入ってきたよそ者の空気に対してどことなく歩いていた面々は敏感に気づく。
私の方に向かった視線はすぐに途切れる。
なにせいかにも依頼者風だったからだろう。
2足歩行でのそれなりに正装とも言えるビジネス的な格好を今日はしている。
明らかに依頼者だ。
わざわざ受付で人数を割いていない。
近くにいた人の良さそうな顔をした少年が近づいてきた。
「おじょーさん、依頼? 奥だよ」
「依頼ってわけじゃないんだけど、ええと……サクライさんに呼ばれて」
確かこう言えって書いてあった。
「サクライさん? まあ俺はよくわかんねーけど、お客さんなら部屋はこっちかな。客間で待ってて」
少年に案内され客間に通される。
話を聞いてきてくれるらしい。
しばし待つ。
くつろいでいたら中に数名入ってきた。
彼らの格好は冒険者にまったくもって似つかわしくない。
それもそのはず……本来はここにいるはずのない者たち。
「月組のみなさん!? もう都に帰られたのでは!?」
月組。
前にアノニマルースを調査しにきた皇国で2番目に偉い組織の1員。
つまり皇王直下の組織の1つということになる。
皇王直下の組織はそれなりに数がある。
その中でも諜報に長けているらしい。
公開されていない情報だがうちの裏方が調べた。
さらにいうと真ん中にいる女性は思いっきり見覚えがある。
サクライ……ではなくてオウカランムさんだ。
ランムさんは溜め息をつく。
「わたしもここに来るはずではなかったのですが、あなたのことなら適任と言われまして。ただ、わたしは今回あくまで補佐、授ける権限を持つものは別にいます」
言葉に導かれたわけではないだろうが再び扉が開く。
その姿を見て私はあ然としてしまった。
多分初めて見た人は十中八九そうなるので相手に失礼でももはや仕方ない。
そのニンゲンは……花を背負っていた。
流石に比喩表現ではある。
ただそれ相応に派手で襟が頭より大きく艶やかに飾っていて。
正気を疑うような色使いと厚化粧通り越してこっちをあざわらってるかのような仮面をつけている。
え? 仮面? やばい1個もわからん。
そしてこのにおい……サイケデリックというべきか
相手を惑わしてしまうような。
臭いとは違う不気味なにおい。
蠱惑的だ……




