七百六生目 貴種
獣拳士になった。
怒涛の攻めと高速に動き回ることを得意とする職業だ。
"銃の撃ち方"はガンナー専用のため現在は使えない。
まあ銃の能力補正だから慣れた今では大きい効果はないしね。
代わりに生えてきたスキルは……
[拳の牙 筋力を使った行動に対して力と速度が上がり、同時に部位の耐久力が増す]
殴る蹴る斬るというものは振るうごとに疲れて痛むし反動でしびれる。
そういった部分に補佐が入って同時に鋭く強くなるらしい。
やはり最初のスキルは順当な強化だ。
試しに振るって見たけれどまだ対して違いは感じない。
多分実際にやってみないとわからないタイプだ。
家でブンブンしてても仕方ないから家から出るかな。
「あ」
「あっ」
家から出ようとしたころを主治医に見つかった。
「ローズ? 今日ずっと出かけてたよね?」
「え? えーっと……まだそんなには……」
「だーめ。普段はゆっくりしているタイプの患者でも入院したらいきなり外出したがるけれど、ローズは顕著だね。呼ばれたら、明らかに飛んでいきそうだからね。はい、飛び出すぐらいならこの書面見て悩んで」
「うっ、仕事します……」
おずおずとして戻されてしまった。
仕事しなきゃな……
奥まった自室に戻された私はホルヴィロスに肉体や魂の診断を受けながらあったことを話す。
特に後遺症疑惑については特に。
「――という感じで、大神の力を使っちゃったせいでだいぶ影響があるかもしれないんだってさ」
「またそんなムチャを……」
「いや本当にこればっかりは偶然なんだよ! 本来は使えないはずの技らしいし、私にも謎なんだって!」
「まあ起きたことは致し方ないとして……そうだね……だいぶ身体の調子が戻ってきているのは間違いないみたい。言われているような影響が見えないのが不気味だよね。見えている病巣は叩き潰せるけれど、隠れているものほど怖いものはない」
私はホルヴィロスに診察されながら書類に目を通す。
同時に考えることは先程の蒼竜の力。
朱竜が言ったのは答え……根の部分だという。
言葉だけで聞けば物理最強だ。
何だって出来てしまう。
しかし蒼竜は魔王に負けている。
おそらく蒼竜は確かに力を司ってはいるけれど……
それをなんでもかんでもできる万能の力と解釈しきれないんだろう。
例えば銃を「遠隔から一方的に射殺す兵器」と言うくらい本質しかみていない。
きっと本来はたくさんの制約や弱点それにコントロール範囲があって初めて成立するのだろう。
想像だけど……使える範囲がめちゃくちゃ狭かったり強力であればあるほど燃料と時間をドカ食いしたり。
まあ実際のところは見ないとわからない。
書類はいくつか目を通し……
ん? 明らかに紙質が違うものが混ざっている。
どれどれ。
皇国の……政府から……貴種位の拝領……えっ!?
「なっ、なにこれ!?」
慌てて読み直す。
深く読んでいけばいくほどわけがわからないことが書いてある。
……まず皇国には貴族はいない。
正確には昔いた。
近代のゴタゴタによる文化革命で現状の貴族位が廃れてしまった。
もちろんニンゲンは生き続けているので未だに大地主やら財閥やらという形で生き残ってはいる。
ただ形だけ残っていた木っ端貴族位は間違いなく吹き飛んだ。
地方の政治の末端に加わるのが限度だろうか。
領主なんてなれるのは元々有力貴族だったものだ。
結果的に尊き血のものとされる皇王一族だけが残された。
……まあ歴史的にあっちはあっちで何度も血で血を争う争いで誰が正当だとか騙りだとかで家系図がごっそり変わったりはしているという噂も聞いている。
まあ前世でもよくあった話だ。
問題はここに書かれていること。
詳しくはちょっと街まで来いと書かれてある。
貴族がいないのに昔からの貴種に認定すると書かれている。
意味のわからない拝領だ。
そもそも明らかに厄ネタである。
いや触りたくねぇー!
でもダメである。
来てもらいたいとこちらの意思を優先するようなことを書いてあるが嘘である。
明らかに命令である。
「まあ、書類にそれがあってね……渡さないわけにはいかなくて」
「う、うーん……これはさすがにね……」
まさしく最優先でみせるものだ。
目で見るだけでわかる新たな火種。
向こうがわざわざ立場を用意しようとしているとき……それは同時に何かをやらせんとしている。
なにが起こるのか何が起こっているのか。
この記された日付に私は向かわねばならない。
深い溜め息をついてから……
返信用封筒にサインした。
ああ初の外出が憂鬱になるなあ……
それまでは少し時間があるから迷宮解放の手順を整えておこう。




