七百四生目 朱蒼
蒼竜たちと白のエリアを探索する。
とはいえふたりとも戦力にならないが。
なのであくまで観光的な案内だ。
「ローズはどこまで把握しているの?」
「迷宮に関しては大雑把に。技術的なものや迷宮の出来に関しては、正直この世界ならではの部分が多すぎて完全には。そもそも、技術的に刺激が強すぎる気がして封印していたようなものだし」
「フン、わかろうがわからなかろうが、あくまでこの世界に湧いたものだ。貴様の前世がどうのこうのはほとんど関係がない」
「むしろ、どんどんとこういうところから新しい刺激を取り入れていかないと、世界の文化なんてあっという間に退化しちゃうからね! 国1つ吹っ飛ぶだけで、一気に文明レベル落ちたりもするからさ」
うーむ。
参考になるような無責任なような。
まあ考えすぎと言いたいのだろうけれど。
あくまで危惧するのは上から一方的に与えられるような未開地への文明と技術の汚染だろうし。
汚染と開拓はまったく違うだろう。
そして大神のごとき力での介入は実際のところは無理な話で……
私がやれるとしても1つの波紋を生み出すまで。
その波紋が共鳴し広がればそれはそれでいいし……
この場に関しては正直私も説明しきれないことのほうが多い。
やはり……近々開放するのも手かな。
結局どうするかはここに住まう者達が決める。
そこには不可思議にも私の席も用意されているだけで。
そうこう話しつつ案内する。
機械でうごめき繁殖し生態系を生み出すさまを遠くから見たり……
構造がこの世界のなにものにも近くない組み合わせで出来た白い床や壁を調べたり。
不可思議なエネルギー扉や機械自動扉それにワープゾーンやエレベーターとエスカレーター。
手を当てると認証するシステムやら声で反応するシステム。
こちらの認証を瞬時にしてくれて選別してくれるシステム。
多数の機械的な仕掛けに蒼竜はとても喜んでいた。
物珍しいらしい。
朱竜はずっと「必要なのは虫だけだ」とムスッとしている。
「――とまあ、安全に回れる範囲ならここまでかな」
「いやあ、助かったよ! やっぱりこれを、閉じ込めておくのはもったいないよ!」
「とはいえ、虫どもにここの力を使いこなせるか? もはや振り回されるほどに暴風かもしれんぞ」
「それはその時さ。彼らだって暴風に耐える知恵はある。これまで何回暴風があったと思うんだ、それこそ、この迷宮のことが少しのことに見えるほどに。朱は最近までその暴風そのものだっただろうに」
「グッ……」
朱竜は反論しようとしてやめた。
不毛過ぎたらしい。
実際私も私がやることでどう変化が生まれるかを少し楽しみになってきた。
まだ恐ろしくもあるけれど……
きっとそれだかではないのだから。
「そうだ、きっと貴様は知らんし、言われて理解するかはわからんが……」
朱竜が悪い笑みを浮かべた。
何か良い蒼竜への反撃を思い浮かべたらしく私に小さな顔を向けてくる。
「蒼竜の力とは、極小単位の物質操作だ。向き、速さ、そして熱量……それらのコントロールを可能
としていると理解している」
「物質操作……物質操作!? 極小単位の!?」
それってなんだっけ。
原子だの素粒子だの分子だのって言われているあれ!?
熱量ってことは振動量すら変えられるの?
そんなめちゃくちゃな力を……
あの時はたしかちょっと向きを変えられた程度の能力だったような……
ごく一部の力しか引き出せていないというのは本当だったんだ。
そんな考え込む私の顔を見て朱竜は満足気にそして……
蒼竜はひどく不満げに顔をしかめていた。
「……キミ、性格悪いってよく言われない?」
「クククッ、こいつは自身の能力の秘匿などどうでもいいだろうが、それを勝手に展開され、根だけ明かされることは嫌うからな」
「僕が言うなりたどり着くんなら良いけれど、そんな面白みのないやり方ほんとよくないよ!? 推理小説で死ぬ人と犯人にマーカーひいておくようなもんだよ!?」
「虫の本のことなら読まんから知らん」
「まったく……!」
蒼竜たちが喧嘩しているのはともかく。
朱竜が大地を動かし蒼竜が極小単位の物質操作……
なんというか極端に間逆なサイズ感の操作技術だ。
なんとなく相いれない気がする。
朱竜と蒼竜は消えるようにいなくなった。
彼らは彼らで自由だし脱出もしただろう。
あくまで目的は達したからね。
私はワープして管理室に戻る。
ちなみにワープ対策はバチバチなので正しい鍵……つまり正確に通せるルートを知らなければまともにワープなどさせない。
私の迷宮はちょっとしたズルへの対策はばっちりだ。
時間的にもそろそろだろう。
タブレットで指示して銃ビーストセージを持ってきてもらう。




