七百三生目 氾濫
私が使った不可思議な力。
あれは一体なんだったのか。
蒼竜がわざわざ話に来るほどとは。
蒼竜はこれまでのヘラヘラとしたような軽い雰囲気はそのままに器用な事に顔だけはまじめくさった。
いわゆる『こいつ顔だけはいいな』状態だろうか。
「ローズ、キミが使ったその力は、我々からしてもかなり特別な力なんだ。正直自覚なしで使われた時は心底驚いたよ。使ったのは……僕の力だ」
「僕……蒼竜の!?」
「そうだよ。あの時、僕の力を引き出して使われたんだ。許可関係なく引っ張られるなんて、無茶苦茶だよ。神使に疎い僕らからしても、もはや通常ではありえないことをしているってわかるほどに」
あの時……
朱竜の莫大な力に対抗するために蒼竜の力を引っ張り出した。
私が引っ張り出した本人そのものだが正直まるでさっぱりだ。
最後の方熱中しすぎて記憶も曖昧なんだよね。
なんだか青い力を使ったような気はする。
どうも私があんまりちゃんとした反応を返さないことに蒼竜が呆れ気味になってきている。
「全く、どれほど凄いことをやらかしたのか気づかないのかい? 前代未聞だよ」
「蒼竜がそういうからにはそうなんだろうけれど、どうも実感に乏しくて」
「フン、契約した神から力の逆流、むしろ強奪など……蒼のところのらしいな」
なんなんだろう。
あの時のことをはっきり言葉にできない。
あの時の感覚がどこか他人事というか。
あの戦いの最中本当に私が使えたのか?
まるで私ではないものが介在したかのような……
奇妙な感覚だけがある。
下を見つめ前足で地面を掘っていたら流石に違和感を感じたらしい。 蒼竜は肩をすくめた。
「……ま、ともかく想定される懸念は2つほど。3つかな? まず他者のしかも異様に強大な力を一部だとしても使うことによる負担。川の流れと同じように、いつもより遥かに多く流されれば氾濫し、やがて決壊する。肉体や精神それに魂を犯し、
ひどく傷つけるだろうね。つーかよくキミ耐えられたね」
「それは我が死んだ際に溢れた過剰エネルギーを身近で受けたからだろう。荒くはあるが死にはしない。それと、意図してなのかはわからんが、見るからに小技にしか使っていなかった。もし本来の能力を振る舞うことがあれば1発で砕けていただろうよ。ただ、我が死んだ時の過剰エネルギーを身近で受けていた割には変化が大人しい……まだ眠っているのか? 他者の、上位者のエネルギーなど馴染むのには相応の時間がかかるだろうからな」
なにそれ聞いてないしこわい。
というか重大な話がバンバン流れてくる。
なぜこのふたりはそういう話をすぐに回してこれないのか。
「第2に。これはさっきの補足的な話になるんだけれとそもそも生き残っていたとして、どのような影響が残るか想像ができない。リスクとリターンが明確な能力と違って、他人の力源泉かけながしだからね」
「それは……まあ何か不具合があれば、知り合いの神に観てもらうよ」
「貴様も大概でたらめなことを言うな……」
何故か朱竜が呆れ顔で見てきた。
「そして第3。これが最も重要で本当に何してくれてんだと思ったところだし、まったくもって信じられないって思って思わず探しに来ちゃった点なんだけれど……」
「ん……一体?」
「僕のエネルギーを勝手に使うなんてひどいじゃないか!!」
「よし、問題点は2つだったね」
「嗚呼、問題点は2つだけだったようだ」
「ちょっと!? どうせすぐに回復する程度の量とは言えぶん取られたものはぶん取られたんだけれど!?」
朱竜は悪い笑みを浮かべて同調。
蒼竜は重大なことを聞き流されてご立腹だが……
蒼竜が普段無駄遣いしかしなくて海のように蓄えられた力のコップひとすくい分消費して生き残ったことになんのためらいが生まれようかってもんだよ。
蒼竜の言い分は軽く聞き流しつつも存外危険な目にあっていたのを自覚した。
"巨獣再臨"のせいばかりと思っていたがそうでもないのかも。
いずれにせよ健康に気を使うにこしたことはない。
「とにかく! あんまり勝手に使わないでよね」
「普段勝手にこっちから持っていってるくせに……そもそも、もう使おうにも、まったくわからないんだって」
「それはそれでまた不思議な話だけれどね……再現性がないなら、ちょっとは安心か。まったく、心配させるにもほどがあるからね!」
うーん嘘のにおい。
蒼竜の力引き出しについては気になることは多いもののそれ以上の深掘りはできなさそうだった。
知識の神ライブラあたりにも聞いてみようかな。
とりあえずその場はこの迷宮について詳しく知りたいとして私に案内を頼んだ。
大族長たちは少なくともしばらくはここに留まると言っていた。
アノニマルースに誘いたかったがそういう種族の生き方ではないと断れる。
とりあえずまた後でと別れの挨拶をした。




