七百二生目 蒼魔
朱竜は非常に弱体化して復活していた。
再度もとに戻るためにはかなりの時間を要しそうだ。
私もかかっているし。
非常にデフォルメされ抱きかかえられるほどになってしまった朱竜。
においや声色それに目つきなんかがそのままでむしろこわい。
なんやかんや殺し殺された間柄だしなあ……
そしてニコニコしているこいつは蒼竜。
私の上司にあたるけれど……
いろんな意味で上司としては成立していない。
そんな2名で成り立っているこの不思議空間。
私の頭が痛くなってきた……
「……つまり、蒼竜は朱竜を振りまわして、ここの隠蔽工作を完璧に解いて中に入り、探索していたと」
「かなり興味深い仕組みの迷宮だったからね! 楽しめたよ、うん!」
それはなにより……
げっそりしながら蒼竜をジト目で見ておく。
気にしたそぶりも見せない。
蒼竜が興味深く考えるのはわからなくもない。
この迷宮はこの世界にない発想と技術をもとにこの世界でしかできないことをやってのけている。
地球に魔物はいないし。
つまりこの世界はまったくもって新しいはずなのだ。
蒼竜すら関知しえない部分が大量に組み込まれている。
そしてそれらはきっと蒼竜の予想を超える。
蒼竜はそういった自身の考えを超える動きが大好きだ。
たとえアリが想定と違う巣の作り方をしたという喜びであっても。
「して、今度は貴様の番だ。我は蒼竜に連れられて散々な旅路をしたからわかるが、虫ごときが楽に来られる道など1つもなかったはずだ。単独で来るような場所ではなかったはずだが」
「まあ正直、隠蔽工作自体が私が仕掛けたというか、この迷宮も私が管理しているというか……」
「へぇ! キミがかい?」
「うわっ、何?」
蒼竜がいきなり身を乗り出してきた。
キラキラした目をしている……
なんか嫌だな。
正直蒼竜がそこまで丁寧に仕掛けを突破するというのも想定外だった。
当たり前だが乱暴に破いたらセキュリティが働くように仕組んである。
それもなかったということは完全に沈黙化させて通り抜けたわけだ。
もっと強化しておかないとな……
「いやあ、この迷宮実に興味深いことがたくさんあってさあ! ……前世絡みかい?」
「……断言はできないし、そもそもこの世界に適した形に出力されているのでだいぶ変化はしているけれどね」
「素晴らしい! いやぁ、実に素晴らしいじゃあないか! そうそう、こういう変化はずっと求めていた! 世界は放っておくとすぐに濁り固まってしまう。完全なる未知で、多少調査したぐらいでは中身の片鱗も理解できないような、そんなものがあるくらいが丁度いいね!」
「……なんだか、蒼竜自身の掴みどころのなさみたいな……」
「アッハッハッ、そうだねありがとう!」
褒めてない。
一層テンションの高い蒼竜と落ちる一方の私と朱竜。
まさかこんなところで意見が合致するとは思っていなかった。
「あとまあ、すぐにでも聞きたい話があるなと思って、アノニマルースに来たのも事実かな」
私たちは移動し3名きりになれる場所まできた。
すぐと言いつつ1月以上なのはもう突っ込まないよ。
寿命無しの感覚に突っ込んでいたらきりがない。
朱竜はもはや蒼竜から距離をとって飛んでいるせいでもはや私の方に位置が近い。
向かい合う方向がややおかしくなっていたが突っ込むとややこしいので心のなかにとどめておく。
「聞きたいことというのは? 朱竜との戦いなら、たしかに勝ったと思うよ。ほとんど互いに相打ちみたいな状況だけれども、ちょっとでも神威である必勝がわいてきていたら危険だったとは思うけれど」
「まあもちろん、そういった朱竜がどうやってボコボコにされたのかを聞きたくはあるけれど……」
「……蒼、後で覚えておけよ」
「今回はそこが主軸じゃないかな。戦いの最中さ、キミの力じゃないもの使っただろう?」
私の力じゃないもの……
何かあったっけ。
私が思い返していると朱竜が深めのため息をする。
「我のブレスを曲げた力だ。あんな異様な力、あれば初期から使っておっただろう」
「……ああ!」
そういえば最後の方で何かきっかけを掴めた気がする。
なんだかよくわからないがあの時はできる気がしたのだ。
あの時は……あれ。
今思い返すと非常におかしい。
あの時の感覚が全くわからなくなっている。
な……なんだっけ。
「ん? どうしたのいきなり頭抱えだして」
「いやあ……全くわからなくなってるんだ。あの時、たしかに何かができたんだけれど、再現してみようとしても、まるでわからなくなっていて……」
「なるほど……土壇場でやれただけか。まあ、ポンポン出来てもらっても困るけれど」
困る? どういうことなんだろうか。




