七百一生目 蒼朱
トキハリーは時空を旅する。
それは既存の時空枠では生きられないということでもあった。
別れてから1月ほどしかたっていないのに彼らは既に多くの時を旅してきていたらしい。
そしてたどり着いたのはここだ。
完全に偶然だけれど会えたのはよかった。
ふたりで向かい合うように座る。
彼らとて肉体の老化という時間から逃れるわけではない。
というよりもむしろ肉体だけがただ時間の流れを讃えているのかもしれない。
きっと老化すらも彼らの操る時の範疇でしかないのだ。
出来ないとやらないの差異というか。
彼らにとって老化と新たな子は長く揺れ動く時空の旅に置いてただ変わらない時の流れとして受け入れられているのかも。
まあ実際に聞いてみたりはしないんだけれど。
「早速本題だが、なぜここへ?」
「むしろ私からすると、なんでここにトキハリーのみんながいるかがびっくりしたんだけれど……順に説明するね」
私はざっと経緯を話す。
まあ彼らなら良いかと私が迷宮の管理者なのも話した。
彼は驚きつつも納得してくれる。
「ローズオーラなら、そのぐらいのことをしているとは思った」
「こっちとしては、迷宮の管理者についてもっと聞かれるかと思ったんだけれど……」
「いや、いい。我らは時に、星の裏側の記録すら有る種だ。おおまかなことは、把握している」
さすが時空を旅して封鎖しているはずの迷宮で住んでいるだけある……
わりかしスムーズに説明を終えられたところで大族長が何か考え出す。
「ふーむ……そういえばなのだが、実はここに来た者は、ローズオーラよりも前にも来ていてだな」
「あ、はい? え?」
「来訪者だ。この迷宮に訪れた者達を探しにきたのだろう? 我ら以外にも来ている。おそらくそこまではうごいていない。それと、我らはここで住んでも構わないだろうか」
「あ、はい。それは大丈夫。キミ達が住む分には……というか来訪者!?」
「集落をさっきうろついているのは見たぞ」
大族長に許しをもらって立ち上がり早速探しに行く。
大族長は他にも普段やることがあるしね。
改めて集落内を歩く。
やはり思ったよりも大きいんだよなこの群れ。
集落とはいいつつアノニマルースの1区画みたいにずらりと住居が並んでいる。
むしろアノニマルースに来てくれないかな。
そうこう考えつつ歩いていく。
物珍しそうに見てくるものから顔見知り程度の相手まで様々。
誰も敵対していないことが逆に受け入れられているとしてみんな見過ごすような環境。
まあここの敵は9割機械系だろうから見れば違うってなるよね。
さて結構広いこの中でトキハリーではないにおいは……
……ん?
いやまさかな。
確かに違和感のにおいは今あった。
けれどさすがにそれはここで見つけるにはおかしいにおいだった。
私は慎重に歩みを進める。
安全な場所のはずなのにどんどん足が重く感じていた。
この先に待つものは吉と出るかはたまた……
角を曲がるとちょうどこちらに振り向くところを出くわした。
トキハリーみたいな風貌をしているが独特の角……あれは蒼竜だ。
あのアイツは神出鬼没だしもはや今はどちらでもいい。
その腕に抱えられたものから発せられるにおい。
知らない風貌。
抱きかかえられるぬいぐるみのようなサイズの小さきもの。
赤い体躯と鋭い目つきは私にあの時味わった恐怖を再現される。
こちらを見て引きつる顔は私か向こうだったか。
「もしかして、朱竜……?」
「なぜ、貴様がここに……やはり離せ!」
「おっとっと」
蒼竜が暴れる朱竜を慌てて離す。
朱竜は自らの力でパタパタと羽ばたき浮き出した。
……何とは言わないけれどこうしていると朱竜とドラーグって親子だなぁ。
「え……なんで……」
「能力の反動だ」
「え?」
「この姿になった理由だ……好きでこんな弱々しい姿、とるわけがなかろう。最後に使った能力は、我の全て以上を賭ける能力。当然、ペナルティもある。使用後の一時的な弱体化……知られたくはなかったが、見られたからには致し方あるまい」
朱竜が語ることは驚きはしたが……
なんとなく理解の及ぶ範囲だった。
私の"巨獣再臨"に似たものなのだろう。
搾り取られるかわりにその時だけは輝ける。
そういったたぐいの力だ。
朱竜がこうなるなんてよほどだけれど……
「そ、それも気になるはきになったんだけれど、なぜここに……? 蒼竜と一緒に!」
「そんなに不思議かい? 5大竜の仲じゃないかハハハ」
「気持ちが悪い。触れるな。こいつにだけはバレたくはなかったのだが……我が弱っていると踏んで我を見つけ出し、拘束されている。忌々しい」
「守ってあげてるんだよ〜ハハッ! まあそれは置いといて、ここはたまたま、やたら精巧に隠蔽されている痕跡見つけたから、ちょーっと興味がわいてね?」
朱竜が蒼竜に振り回されているのはよくわかった……




