六百九十六生目 夜間
勝利者インタビューとは勝った者の特権。
そして華である。
まあそんな経験も歴史もないんでもはやマイクを向けて話すだけ話してもらうみたいか感じになるが。
「ありがとうございます。では、勝ったチームの方々は、今回の戦いの手応えはいかがでしたでしょうか?」
「見てたか!? ここでいいのか!? 勝ったぜ俺達!」
カメラの前にガンとぶつかる蹴り使い。
みえないみえない。
顔をレンズにぶつけたら見えないのよ。
ちょっと下がってもらい改めてカメラを回してもらう。
壊れていることはないと思う。
あの城を駆け抜けて平気だったんだし。
「見てたー!? 勝ったよー!」
「やっぱ指揮官はいたほうがいいね、今回は運勝ち」
「ママー! パパー! いえーい!」
こっちのチームはアピールが激しい。
ひとり反省会しているし。
カメラの前でみんながちゃがちゃしている。
楽しそうにワイワイとしているが時間がある。
それなりのところで区切った。
そもそもあんまり声が重なるとマイクが雑音しか拾えなくなるのだ。
「はい! ありがとうございました! カメラの向こうのみなさん、楽しんでいただけたでしょうか? ここで一旦くぎりまーす!」
カメラを止めてひと息つく。
別に私はそんなに喉の声帯を使っていないがひどく喉がかわく。
光神術"サウンドウェーブ"でしゃべっているのに……
というわけでカフェでみんなと和んでいた。
喉を潤し次に備える。
ちなみに現場検証組によるとわりと激しい映像もおさまっていたらしい。
ただコマ数の少なさによる動きの追えなさとどうしても激しい動きに対するピントズレは起こっているのだとか。
そういうのが起こるのはある程度想定内。
凄まじく高度な映像伝達能力だ。
ちなみにだいたいのところで応援会場さながらだったらしい。
絶対アノニマルースはこの競技盛り上がると踏んではいる。
やがて外からもニンゲンを呼びたい。
競技上とはいえバトルはバトルだ。
元々身体にたまっていくエネルギーを発散し経験を得たい魔物は多く。
また魔物特有のパワフルな戦いはニンゲンたちからみればウリになると私はニンゲン的見地から理解している。
あとは広め方だがこれも映像を通していければ……
私たちは残りの工程を軽く会議したあとカフェを去る。
今度は……夜間撮影だ。
夜闇の中。
私たちはアノニマルースの明かりすらほとんど見えない場所までやってきた。
とはいえここもアノニマルース内ではある。
「みなさーんこんばんは! 夜の時間になりました。ここは、アノニマルース自然公園内です!」
アノニマルースで自然公園と言えば1箇所しかない。
密林だ。
出入りが制限される危険な区域でもある。
なにせお世辞にも密林内が見えやすい環境とは言えない。
地面は自然剥き出しで不思議なキノコや胞子それによくわからないコケあたりが淡い光を放っているけれど。
それらは太陽光下と比較すべくもない。
「視聴者のみなさまは、これで見えますでしょうか?」
光神術"ライト"を使い私たちの周囲に明るい光源を生み出す。
実はあまり使わないスキル。
夜目利くしね。
昼間のように明るくとはいかないがだいぶ見通せる程度には明るくなった。
これでカメラがどのように機能するかのチェックだ。
さて……
カメラが撮るのは神秘的な密林……夜の世界。
昼の世界はわりかし多くのものが見たことのあるアノニマルースでも夜間は夜間というだけでかなり縛りが増すため見たことのある者は少ない。
なぜならば夜間は……密林の猛獣たちが活発だからだ。
「さあ、神秘と恐怖の世界を進んでいきましょう」
ズンズンとここらへんは恐れ知らずで進んでいく。
カメラマンやマイクマンそれにディレクターも動けるものぞろい。
代わり映えのしない絵を取り続ける趣味はない。
音は凛と静かで沈んでいて。
それなのに……常に音が響く。
自然の音。
私が育った森とは違う音の色。
美しさよりも恐ろしさや不気味さが勝つ。
話しながら少し移動すれば川に当たった。
「あ、川ですね。源泉は密林の高台にあるんですよ。それと、このアノニマルースにも使われている水の源泉はもうひとつ、この荒野の迷宮でも入り組んでたどり着きにくい場所にあります」
荒野の迷宮は地下水が多い。
しかしそれらは別に無から生えているわけじゃない。
迷宮管理者になってわかったけれどちゃんとここにも源泉があるし水は少し変わったかたちでも循環している。
そもそも迷宮という小さな世界は単品では破綻しているのでどこかで魔法的に世界をうまく回しているのだ。
魔法的に……つまりは世界の法を利用した盛大な自然再現独立循環式構造を持つ魔法機構こそこの迷宮という存在だ。




