六百九十三生目 砲台
左の包囲陣と右の一本槍。
さらに右はコンテナにちょっかいをかけて左に圧をかけている。
……おや?
「あ、今カンペが来ましたね。どちらが勝つかの予想ですか……」
向こうでは土煙を上げての大乱闘中。
正直ここからどっちが勝つかと決めつけるのは難しいなあ。
どれだけ戦いがうまくても弱点を狙いボールを集めるという試合が苦手な者はたくさんいるし。
これは大事なことなのだがルール上で戦っているため弱点破壊ではない深手狙いの攻撃は禁じられている。
つまり大柄の者が身体をはって攻撃を防いでいるが戦いそのものなら顎をえぐるなり鳩尾を貫くなり魔法でどうこうするなり考えれば良い。
しかしやっているのは問答無用の殺陣ではない。
そういった選手を意図的に傷つける行為はルール違反になる。
他のボール競技みたいに相手の守りをこじ開けるタックルは良くて背後から大怪我狙いのタックルするのはダメみたいな細かな決まりがあるのだ。
つまるところ……わからない。
「正直、この競技は初心者なのでなんとも言えないですね。そこが、このゲームの面白さかもしれません」
私なら"観察"して強さ比較してざっくり相性見てバトルとしての勝ち負けは判断できる。
ただ試合としては……
それに戦術が戦いをわけるとなるとよりわからなくなる。
鳥魔物がずっと高高度を維持せず試合の殆どを低空で過ごすのも制限のためだ。
そのため彼ら鳥魔物は急襲以外が弱い。
カバーに入るような形で金棒使いが立ちふさがる。
爪使いは順調にひとつずつ枷を引き外していた。
まあ全部の弱点破壊までは時間のかかる仕事だろう。
ひとりの遠隔がコンテナに手出しされるのを嫌って爪使いに遠くから射撃。
爪使いはうまく隠れつつ様子見。
……! 集団戦が動いた!
よそ見をした遠隔が一気に狩られる!
しかし出来たスキに四方八方からスキルが叩きつけられ。
それでもなおすれすれで生き残った面々が飛び出して狩る。
大柄の魔物が満足そうにたおれた。
状況を察した左側の魔物たちが踵を返して引き返すがもう遅い。
1本槍の勢いそれぞれが飲まれていき。
最終的に1つめのタワーをポイントで満タンにした。
「タワーをへし折ったー!」
へし折る……折れるというのはバトルボールの慣用語みたいなものだ。
実際に折れるのではなくタワーとして機能を失うということ。
サポーターたちがタワーを回収していく。
こうなると復帰が間に合うかは怪しい。
4名全員でコンテナの柵を引き抜いた。
次々破壊すれば時間にしてわずか。
中から現れたのは大量のボールだ。
「大量得点!! これで大きくリードしました!」
いそいそと右側チームはボールを各々入る分詰める。
合計は100ほど。
合わせれば1タワー分に相当する。
普段2つや5つを小競り合いしているからこれを取ることがどれだけ大きいかよくわかる。
もちろんこの後入れる前に倒されればごっそり奪われるわけだが。
さて奥側。
奥側はほとんど小競り合いの様子をていしていた。
1対1だからしかたないのもあるが……
なんともうひとつ攻撃意思があるものが存在するのだ。
砲台に乗ったサポーターである。
このサポーターは特別。
砲台からは双方への砲撃が許可されておりルール上どちらの陣営も砲撃を殴っていい。
しかも砲台にも弱点がついている。
砲台の弱点全てを潰れるとラストを叩いた方にだけ味方となり進軍する。
砲台は所詮ポンポンと軽く球を打って妨害するだけの代物だが砲台がタワーに到達すると話がかわる。
さーて到達するかな?
まずは互いに少しずつ砲台の弱点を潰したり弱点を潰している相手を殴ったりしている。
さすがに砲台からの攻撃でやられるほどやわじゃないらしい。
……先に倒された左側の面々が先に来ている!
私達からみて手前側へ行くことを諦めて奥側へ進軍したらしい。
右側にいた1体が遅れて気づく。
鳥ではそんなに持ちこたえることができない。
慌てて引き返しタワーや砲台を放棄した。
ダウンするよりマシという判断だ。
鳥はさすがに素早いため致命傷を受けず前のタワーまで引き返せる。
代わりに左のチームがあっさりと砲台の弱点を破壊しつくした。
新たに砲台が移動を始める。
正直移動を始めた砲台を壊すのは困難を極めるのだ。
なにせ弱点は新たに背後へ現れる。
背後は当然敵が守っているわけで。
慌てて右側から大柄魔物が上がってきたが鳥魔物と一緒に競り合うだけ競り合って時間稼ぎし逃走。
タワーに到達した砲台は……なんとタワーの替え弱点球を回収し裏へ帰っていった。
そうタワー機能の喪失こそが砲台の能力。
序盤こそそうでもないが連続で何度も押し込まれればあまりに苦しいだろう。




