六百九十二生目 陣形
「ヒット! 選手ダウン!」
審判の声が高らかに響く。
序盤のダウンなので底まで時間はとらないが……
最初に戻されるうえその間上はひとりの獣が守らねばならない。
中央からきた右側のナイフ持ちはダウンした相手が規定で落とした半量分とそこらへんの設置された分を回収し中央に戻っていった。
「状況が大きく動き出しました!」
さあ……今私が言ったことは何も奥側だけではない。
手前側も大きく動き出していた。
中央の魔物はもう1体左側にもいるということだ。
手前側のレーンで審判が叫ぶ。
右側の爪使いと金棒使いが奮闘虚しく落とされていた。
攻め込みすぎていたところを左側レーンの中央魔物がまとめて蹴り落としていた。
左側中央のエース魔物は蹴り使い。
あまりに素早い連撃で的確に弱点を潰していた。
向こうがダウンして手すきなため一気に詰め寄る。
そして……
3名全員でゴール!
「決まりました! 大量得点! タワーが満タンになるまで残り少しです!」
タワーは満タンになるとその機能を失う。
そこに追加得点が入れられないからより敵陣に踏み込む必要があり危険なのと同時に。
拠点が無いのでなくなった側は回復や防衛できる場所が減る。
当然壊されるわけにはいかないので急いで復活したいところ。
中央組はそれぞれのところにボールを取りに戻った。
その後小競り合いがあって。
やがて全員がソワソワとし配置が変わる。
1-0-4の手前側に集中する配置。
それもそのはずである。
力持ちのサポーターたちが持ってきて置いたもの。
それは大きなハコだ。
ハコは明らかに頑強な金属でそのままではバカ力で破壊するしかない。
ただハコには引っこ抜ける紐が多数。
さらに引っこ抜いた中から出てくるのは弱点。
そう今度はこのハコを解体する時間だ。
奥側のレーンにも用意されたものがあるがこれはまた後で。
4対4の集団戦が始まろうとしている。
まず互いに敵を引き付けやすく弱点を守りやすいタイプから前に出る。
当然そのままではどっちかが袋叩きにされる。
壁役の魔物を盾にすぐさま後衛組が遠隔攻撃を放ち……
そのスキマを縫って近接組が詰めてくる。
この時重要なのは互いの技だ。
基礎的な殴り合いでは基本的に決着はつかない。
どっちかが息を合わせて技を繰り出す必要がある。
通常攻撃連打から一気に大型の魔物が進む。
事前に使うと申請してあったスキルが発動。
前方へ一気に詰めたかと思うと敵の目前で地面を叩く。
広い範囲前方に衝撃波が走った。
弱点が壊れるほどではないが……動きが一瞬止まる。
そこに畳み掛けるようにナイフ使いが影分身して襲いかかる。
そして爪使いと金棒持ちが相手が怯むようなスキルを選んで放っていく。
「チェインと呼ばれるコンボですね!」
しかし左側も負けてはいない。
来ることがわかってて一瞬引き返すなり横道に逸れるなりして隊列をふくらませる。
膨らんだ中に相手がなだれ込んできたのでここから殴りかかった。
遠隔ふたりがビームやら氷魔法で凍てつけやらやっている。
突撃してきた面々の動きを食い止めていた。
そのまま蹴り使いや獣も突撃し乱戦!
「遠くから見ていても凄まじい迫力! 互いの魔物が高速で次々落ちていきます!」
もちろん互いに正面衝突では運の戦いになってしまう。
実力は同等になるよう調整されているしね。
だからこそ互いに戦術の違いでぎりぎり上を取れるように狙っている。
互いに3体程度落ちたところでどちらも引く。
1体と1体じゃあコンテナを壊せない。
それぞれタワーに引きこもり弱点を治す。
砕けたのもそうだけれどひび割れているのもこの間に治す技術が結構問われる。
そしてダウンした3名ずつが急いで戻ってきた。
互いに走りながら受信機を使ってトランシーバーみたいにやり取りしていた。
リング型の受信機知らない間にどんどんアップデートされているからな……
会議した結果が出たのか互いに前へ出始める。
すると右側の爪使いがコンテナの方に走る。
おお先にコンテナへ手を出すつもりだ。
左側もその動きを気にしているが動きを鈍らせつつ大きく広がり突撃。
つまり衝突場所がやや左寄りになる。
遠隔の多い左チームは引き撃ちしながら右チームを誘う。
右チームは大柄が引き付けつつも前へ飛び出るチャンスを伺っていた。
あたりまえだがゴチャついたところをまとめて大技叩き込まれればまとめてやられてしまう。
ただ右チームの1本槍陣形も優秀な点がある。
圧倒的な貫通力だ。
前方が守ってくれているから気にせず突貫できる。
そして大きく展開する側も各個撃破されるという危険を常にはらんでいる。
さてどうなるか……




