六百八十九生目 方角
ニンゲン街ができたとはいえそれはまだまだ序盤。
インフラを整え商業施設を整え。
環境を作り娯楽を構成し生きる環境全体を成立しなくてはならない。
ということでまだまだたとは言え。
場所はできた。
「――そんなわけで、ニンゲン街は今の形になりました、これからどんどん発展していくので、みなさんよろしくおねがいします! そして、あちらに見えますのは、ニンゲンたちのお店がひとつ、細工屋さんです!」
私がイバラを差し向けた先にカメラが回される。
そこには1つのお店。
今回アポイントメントを取っておいた店だ。
早速カメラが全景を映す中私が中へと歩んでいく。
そこにはニンゲンの店員さんがいた。
店もつい最近流れでできたというのにそうは思えないほどしっかりしている。
正面には細工屋らしく様々な革製品やら編み物が見えるが特徴的なものがある。
5大竜をモチーフにした品々だ。 これらは大河王国の歴史文化から持ち込まれたもの。
様々な騒動があり正直信仰が底からひっくり返るかのようなことが起きた。
しかし市民には……特にこんな遠く離れた地ではまだまだ根強く信仰されつづけている。
心の有所だ。
正直アノニマルースは歴史や文化の重みがない。
皇国のはあるもののそれはアノニマルースとはかなり遠いからね。
今アノニマルースはたくさんの他国や皇国から文化を取り入れる段階なのだ。
「見てください、この見事な工芸品の数々! こんにちはー!」
「あ、こ、こんに、こんにちは、こ、これ、うつっ……てるんですよね?」
「そうですそうです、落ち着いて」
めちゃくちゃテンパっていた。
「う、フゥー……申し訳ありません、お見苦しいところを流してしまいました。そ、そうです。私たちは大河王国をメインに含む多くの民芸品、工芸品を細工し制作しています。元々は、みなさんが普段心の拠り所にしていた教えと信仰に対する品々をつくり、苦境を乗り越えるために配布したりしていたのです。それが、今こうして仕事につながっています」
「ありがとうございます。ということは主な売上は、ニンゲン街内の住民たちでしょうか?」
「そうですね、現状はだいぶ大きな割合が内側です。信仰の品や、普段の暮らしをするための品はどれだけあってもそうそう困らないですからね。ただ、それだけではなくて最近はアノニマルースの魔物さんたちも購入してくださいます。珍しい品だから、と。この調子で販売できる相手を広げられたらなと今は考えているところです」
「なるほどー! たしかに、見た目からしてもアノニマルースにはない、独特なものが多いですね。飾るだけでも目を楽しませてくれますし、そもそも宗教的なものは心の印象に残りやすくもありますね」
私たちが話しながらカメラが向けているのはどうやら編み細工で作られた立派な5竜の象徴。
よしこのタイミングかな。
「こちらの商品は、売れ筋とお聞きしました!」
「はい、元々はどの家庭にもあるタイプの出来栄えを目指し、手にとって貰いやすさを重視しました。幸いここでは、染色繊維の入手に困らなかったので、比較的高品質に出来上がっていると自負しています。部屋に飾ることで、簡易ながら祈りの捧げを日常的に行えるからこそ、毎日目に触れていてもくどくなく違和感のないものに出来上がりました」
「素敵な品ですね。私も信仰派閥は違いますが、気軽に家へ飾っても違和感はなさそうです」
「そうですね、宗教的観点以外からの使用用途も、もちろんお客様次第です。そうそう、宗教以外と言えば、今人気の新商品があるんです」
「なるほど、こちら……え゛ッ」
もちろんツメツメに台本に書いたセリフだけではなくほどほどに相槌やアドリブも交える。
そうして向こうがそういえばという体で出したもの。
それを見てカメラに映され変な声が飛び出てしまった。
「こちらの商品は、とあるお方……ええ、とあるお方の種族をモチーフとした細工商品たちです。大河王国救国の一端を担っていたとされ、この地でも非常に愛される方ですからか、特に魔物の方々に飛ぶように売れていまして、今人気といえばこの関連になっています」
「種族ですよね、種族!」
そこには3つ目の青い獣が描かれていた細工品多数。
編み物。革細工。小物。
飾り品からポーチみたいな実用品まで。
絵柄のタッチや雰囲気似せで顔は詳細じゃないせいで私って言えるかどうかは微妙。
それにしても様々な姿と品種があるのなんなの……?
「種族ですよ、種族。特に参考造形は、四獣と言われるこのアノニマルースで有名な、4つの方角を守っている像たちを参考にしました。ぜひ、買いにきてくださいね!」
四獣像……
アノニマルースに設置された私の4つ姿を模したあれかー!
それぞれの方角にあるけれど今そんな扱いなんだ!?




