六百八十八生目 人間
「今回はお試し配信ということで、ここにも映像射影機があります。映ってるかなー?」
写し絵機こと静止画カメラではフィルムに現像される。
けれどテレビジョンの役割になるこちらはガチガチの機械……ではない。
見た目はひし形の水晶に似ている。
角っこで台座に刺さっている。
ちゃんと固定されているので安心。
そこから映像が抽出して表示される。
水晶の上側空間に立体的な球体が表示され……
球体は立体空間をそのまま切り取ったかのように私とその周囲が映し出されている。
ちなみにエコーすると困るので音は切ってあるよ。
私が映った映像の中で私の映った映像が流れておりその映像の中の私が映っていてそこの中に映像が……
という不可思議な光景が映し出されている。
ちなみにたまに勘違いがあるけれどこの繰り返しは有限。
光がそのうち限界になるし映像の解像度問題で潰れるし。
しかもまだまだ品質が良いわけじゃないからどうも映像にはノイズがまじる。
これでも驚きの技術なんだけれど。
「気づいた方もいるかもしれませんが、映像は結構時間差があります。何十秒から1分の後に皆さんへお届けされまーす」
私が腕を振ると映像はだいぶ遅れて腕を振る。
地球の裏側のみなさーんと言いたくなる。
そんなに距離は離れていないどころかアノニマルース内アノニマルース収録放送だが。
「大丈夫そうですね。試験中なので、アノニマルース内でカメラを回していますが、実際にはアノニマルース外で回すことも多くなるかと思います。とりあえず行ってみましょう」
カメラ担当さんとマイク担当さんに移動を促す。
カメラは自力では動けないしマイクはうっかりするとどこかへ飛んでいく。
それぞれ専属の魔物がいるのだ。
カメラは私から視点を移す。
グルっと回って映されたのはアノニマルース内でも雰囲気の違う場所。
普通アノニマルースの地区って魔物が住むこと独特の世界観になっているんだよね。
地区の世界観というとなんだか壮大だけれどもつまり国ごとの違いというより種族の違いを肌で感じられるような。
そもそもニンゲン族の街に自身の種族をモチーフにした建物とかそんなずらりと建てたり高台が変な場所にあったり地面が掘られまくってたりはしないと思う。
けれどこの扉なき門の先は違う。
かかったアーチはここから明確に違う地区に入ることを指名してある。
そもそもここからが魔物の地区分けと違う。
魔物たちはなんか環境が違うと別の地域だ。
そしてはっきり文字で書いてあるのだ。
「ここは、新設された……ニンゲン街です」
ニンゲン地区……というとなんだか語呂が悪いとかそもそも奇妙な感覚があるとかでニンゲン街呼びになった。
ニンゲン街に入っていくとずらりとキレイに並んだ建物たち。
地面も真っ直ぐに舗道されている。
つまるところニンゲンたちが住みやすい環境だ。
「ここは元々、完全な空き土地でした。しかしある日からここに難民の方たちが他国から流れてくるようになったのです。ニンゲンたちのため、どうしてもなかなかアノニマルースになじめずに、少ない手持ちと手作業で雨風をしのげる場所を作りました。ここなら外壁内ですから野生の魔物に襲われる心配はないですからね」
アノニマルースの外壁はずっと作っている。
広大な土地に何度もラインを引き直して何ならわざと増やしたりしているわけで。
内側の一般的な安全は法律的に保証される。
外壁外になるだけで皇国としても色々法律の適用外になるから外って思ったより怖いんだよね。
そこに冒険者とは好んで突っ込んでいくものたちなので端的に言ってまあまあおかしいのかもしれない。 どんどんと中へと進んでいく。
「ご覧の通り、現在は既に非常に整理され、全てのニンゲンたちにかけて開かれています。何があったのかを話しつつ、紹介していきましょう」
私はここで過去にあったこと……という台本に書いてあることを語っていく。
脳裏に台本を保存してあるのでそこを読んでいくんだけれど……
芝居臭くならないよう気をつけなくては。
ここははるか遠くから引っ越してきた者たちばかり。
とうぜん最初は多くの衝突があった。
そもそもかなり治安悪かったし。
今はこっちに手を振ってくれるニンゲンたちがたくさんいる。
カメラ回すのは教えていたからね。
みんな映り込みにくるね……!
そして海外で王位交代のゴタゴタがおきた。
簡単に言うと悪王で逃げ出したものたちが今度は善王に保護されたわけだ。
ただその国のものばかりではなく元々命からがらの片道切符。
結果的に住むこととなったがじゃあ何が問題か。
元のスラム化した街である。
善王殻支援を受け一気にインフラを投資した。
さらにそれが仕事となりそこから色々アノニマルース内に繋がりをもって……
今みんなでニンゲン街ができた流れだ。




