百七十三生目 旧友
「さあどうした、お前さんの力はその程度か?」
「ぐおおお……そうは言ってもおおおお!!」
こんばんは頭が割れそうです。
今、言語を強制ラーニングしちゃうスキルを機械で再現するために色々としているのですが。
機械からの高出力の力が私を内側から削るような痛みを与えています。
受信機を通してやってくるパワーがとんでもない! えぐい! 殺す気か!
完全にギリギリを攻められている。
ニンゲンだったら泣いてる。
「ほれほれ、まだ50回のトライじゃろ? ワシにはまだいけるように見えるぞ!」
「ちょっとまあうぐううぅがああぁっ!!」
今度は全身が焼けるように痛む。
なんでだ! 絶対これおかしいだろ!
それに九尾の言っていること、やはりスキルで"観察"を持っているのか!?
私の"観察"を無意識に妨害したという点からも疑っていたが九尾も"観察"持ちなのか。
"観察"持ちなら"観察"に対する対策を立てていてもおかしくない。
特に九尾はニンゲンたちから隠れ住んでいるから身バレは危険。
そしてある程度高レベルの"観察"持ちならば生命力なんかも測れる。
つまりそれは……
「ふむふむ……今のは良いデータが取れたの。ほい52回目じゃ」
「アバババババダダダババ!!」
なんで!?
なんで電気ショック流れてるの!?
これ絶対何か別のデータとってるよね!?
だ、誰か助けてー!!
「まあ、こんなもんかの。再現性や出力調整はなんとかなりそうじゃ」
「お、終わった……」
さすがに来世が見えそうになっていた。
まあ逝く前にギリギリで九尾が機械を止めたのだけれど。
なんで私の耐久実験みたいになったんだ。
肉体を治療してもまだ精神的な疲労が残っている気がする……
受信機を返してその日は解散ということとなった。
何時間たったのか、外に出れば2つの月が良く空にのぼっている。
もしかしてこの時間ならばあそこに……
空魔法"ファストトラベル"!
ワープして移動した先はよく星が見える高台。
イタ吉のお気に入り場所。
そこにイタ吉は……いなかった。
星は相変わらずキレイで。
それを眺める魔物はいた。
近くに歩んだらその背丈は私を越えている。
イタ吉は小さい頃の私ぐらいしか背丈が無くて見間違えようが無い。
そっと邪魔をしないように見上げる。
はたしてイタ吉は今どこで寝ているのか。
「……ん? あれ、ローズじゃん。おひさー」
「……え? どちらさまで?」
すると突然その魔物が私に話しかけて来た。
というか名前すら知っている?
誰だっけ、私の知り合いにこんな魔物いたっけかな。
ええと、背丈は私を越えていて脚が短めなせいで座っている今は前脚が地面についていないほど。
直立しているに近い今は1.5mほどかな。
顔は黒く腹は白いが茶色系統で纏まっていて尾が特徴的。
片刃の幅広いブレードになっている。
まるで金属のようなその尾は途中でくぼみがあってあそこで受けて敵の爪を折るのかな。
そんな攻撃的な雰囲気の漂う容貌と共にどこかボンヤリと懐かしい気配。
「何言ってるんだ? ってああ、そうか。俺だよ、イタ吉。トランスしたんだぜ!」
「って、え、ええ!? えええ!?」
イタ吉!?
言われてみれば!
確かに! 何となく雰囲気が!
[イナガマチLy.4]
[イナガマチ 個体名:イタ吉
尾先が切り裂くための爪になっていて鎌のように扱う。普段は縮めているが尾は持ち手になる]
うおーイタ吉だ!
「随分と大きくなったね!」
「まあな! 俺もかなり強くなったんだぜ!」
そう言ってマッスルポーズをとるイタ吉。
うん、強さは伝わらないが元気そうなのは伝わった。
「なんか途中からお前からやたら経験値が来たんだけれど、それが良かったのかトランス出来たぜ!
なんか知ってる?」
「ああ……私が新しく覚えたスキルの効果だね」
"指導者"だ。
目に見える形でこうやって成果が出ているようだとスキルをとったかいがある。
「ありがとな! まあそのおかげでお前より強くなっちゃったかもな」
「そう? 久々に模擬戦やってみる?」
「良いね! まだ元気あるしメシも食べたからやれるさ!」
夜とは言え星と月が十分辺りを照らしている。
模擬戦は十分やれるだろう。
久々にイタ吉と手合わせ。
存分にやろう。
場所は高台から少し降りた付近の特に何もない道路。
本来は畑に通う道なのだろうがこの時間に手入れしにくるものもいないし畑は狩り終わっているのか何も生えていない。
ちょうどいいだろう。
私は今回は進化はしない。
あくまで素の私で挑む。
(おう、殺し合いじゃないなら任せる)
(いたいのいやだし、がんばれー)
ドライとアインスは完全に観戦モード。
これだけ広く道幅があれば戦闘には十分。
イタ吉も前脚を組んでやる気十分。
さあ、やろう!