六百八十七生目 撮影
狙い過たず木剣は振り抜かれる。
教官の木剣はそこにはない。
そして。
「クッ……!」
防がれた!?
木剣が挿し込まれた。
これは関節がニンゲンの可動域じゃない……!
けれど主導権を取れた!
互いに身体を反転させて剣舞のように切り結んでいく。
リビングアーマーは剣士という見た目と違って内実は空虚な中身だ。
そう振る舞ったほうが強くちゃんとしているだけで無視することもできる。
それが今の無茶な剣振り。
無茶でも通すんだから困る。
つまり言うほど私がイバラで木剣を持っていることにアドバンテージはない。
結局イバラを木剣で叩かれてもそれは剣を持つ手を切り落とされた判定で負けだし。
引いて打って教官の体勢を崩しにかかる。
さっきまでの防戦とは違いとにかく押し込む。
スキを突くというよりは振られたら嫌なところを叩き込む。
返してはくるものの主導権を取っているから前よりずっと良い。
乱打する側のコツは同じリズムで叩き込まないことらしい。
来る瞬間がわかっていれば簡単に返せるからだ。
そうならないように1手1手緩めずに空気を切り裂いていく。
前方に押し込めば向こうもそれなりのムチャが出てくる。
そこを狙って……!
「そこ」
「なっ!?」
今攻めようとした瞬間にむしろ
教官が構えを高く掲げていた。
素早くこちらの木剣も振られ。
教官の木剣も鋭く薙ぐ。
カランと木剣の音が響いた。
僅かな時なにもない空の時間が隅々まで届いて。
やがてため息ひとつが流れた。
「負けたぁー……」
「なかなか今回は良かったじゃないか。うまい読みだった」
「まあ、だいぶ学びがありました」
私のイバラが打たれた。
私の木剣は教官に当たったが肩に逸れた。
先に剣を落としているはずの私が負けだ。
「やはり、お前に勝つと恐ろしい勢いで力量が増すな」
「……え? そうなんですか?」
「ふむ、やはり気づいてはいなかったか。そもそもローズオーラはめっきり実力を上げているが、今まで試合形式ではほとんどこの自分に勝った覚えないだろう。それは、単に自分が鍛錬した以上に、ローズオーラに試合とは言え勝っているからだろう。でなければ、ついていくのは力量差で不可能になるからな」
「そうなんだ……私、経験値袋になっていたのか……」
元々"指導者"により自動的に私の得た一部経験はコピーされ関わり合いのある味方に分配されていた。
ただ私は誰かと組んで訓練することはたくさんある。
そこで私を経験の塊として扱われがちだったらしい。
いや……これ結構有用な話だな。 今までなんとなくスパーリングに付き合っていたところだけれど。
これからはもっと積極的に打ち合ってもいいかもしれない。
……負けたのは悔しいけれど!
えー。
マイクテスマイクテス。
こんにちは私です。
先日なんでも見るくんとなんでも聞くくんで城の中から外からそして朱竜との戦いをバッチリ撮影できていたらしい。
らしいというのは私はみれていないから。
1月も表に出られなかったからね……!
さて作ったなんでも見るくんとなんでも聞くくん……めんどくさいやもう。
カメラとマイクはこのまま倉庫に……いくのはがもったいなさすぎる。
これはこれで凄まじい手間がかかっているのだ。
記録媒体は別ですでに取り出されてある。
というか記憶媒体がとても希少で高価なんだよね。
量産はできていない。
ただカメラとマイクは幸いずっと動く。
根はゴーレムだからね。
ゴーレムたちも見たり聞いたりするからその技術がそのまま生かされているわけだ。
記録媒体が別というのも功を奏す。
送信する能力が元々あるのだ。
そして送信能力とはアノニマルースで使われる翻訳するための受信機の応用……らしい。
そしてこれまではそこから送られたものがキュウビ博士のもとに送られて処理され保存されていた。
だから応用すれば録画は残せずとも再送信は可能らしい。
なんということでしょう。
実質テレビジョンが可能です。
まあブラウン管テレビジョンなんてものはキュウビ博士が類似品を作ったのがギリギリしかない。
再生媒体は別になる。
とはいえ再生媒体は既存品がある。
もともと他の場所と繋いで映像や音をお届けするものだ。
相互通信は難しいけれど片道は技術的に楽らしい。
大河王国で見たものはかなり立派だけれどもっと廉価版かつ小型。
こちらは受信機同様量産体制。
ただし費用はかかるので配ることはできない。
それでも各広場なんかに設置してやがて各家庭に落とし込む予定だ。
問題は放送枠ってだけで。
当たり前だけれどまだプロとして仕事をこなせる魔物やニンゲンはいない。
そこで使ったことのある私が試用しているわけだ。




