六百八十六生目 優位
実際に打ち合いが始まればおそらく一瞬でカタがつく。
互いの攻撃範囲が被りもはやどちらから仕掛けてもおかしくない。
想像内ではもはや何回打ち込んだのだろうか。
まずいな……想像の中で勝ててる線がない。
負けている線もないものの1行動分でもう不利対面に持っていかれている動きばかり。
このわずかな時間の間に嫌でも経験がつみかさなっているイメージがありありと浮かぶ……
もし1発負けのイメージがかち合ったらその瞬間に私の負けが決まる。
このイメージはただのイメージじゃない。
教官と語り合う共有されたイメージに近いのだから。
それは互いの気迫という形で成立している。
互いに1歩ずつ配置を変える。
互いにもっとも適切な配置を探り合う。
正解はない。
いや私が正解を見えていないだけか。
できうる限り先の打ち合いを見通して有利対面を作らなくちゃ。
ぞわりと。
急に背筋が寒くなる想い。
これはさすがにわかる。
教官が来る……くっ!
踏み込まなくてはならない。
誘導されるのは危険だけれど待っていたら取られる!
もし転げ回ったり飛んだり跳ねたりしていいならまた別の回避方法はあるけれどこれは試合。
あくまで踏み込む。
教官も一瞬で目前まで迫り私と剣を合わせていた。
あっぶな……今動いていなかったら私が反応して上段振りでも手狙いでも胴狙いでも何なら足切りでも。
的確に剣を合わせずに背中を斬り裂かれるところだった。
つまり強い踏み込みからの大振りで振り抜いた最後を当てる斬り方。
通常背中の防備は関節や可動域の兼ね合いそれにそもそも正面よりずっと斬られる危険性が低いから若干防御面は不安。
普通に死ぬところだった危ない……
もちろん試合上の。
そして当然受けたということは切り合いは続く。
始まった剣戟は今までと違って激しい連続斬撃。
もはやどこにどうとか思考を回している余裕がない……ッ!
様々なサポートが……特に"止眼"とかドライの補正があれば私全体としては余裕があるんだけれど。
("私"はこんなまどろっこしい戦い方じゃないヤツで使いな、ほれ鍛えるんだしよ)
(ふぁいとー!)
覚えとけよ私……
自分自身に喧嘩をうりつつも私がツバイとして立ち向かうしかない。
とにかく考えるより先に剣を振るう。
もはや思考をしているとその間に打たれる。
それなのに思考を止めてはすきだらけで打たれる。
かなりきつい。
連打が避けられにくい。
そしてこちらから打って出ればそれをそのまま返される。
早い……!
「……フッ」
「……ゥッ」
リビングアーマーみたいな不死とかで呼吸をしない相手は気をつけなくてはならない。
呼吸音が聞こえた時はほぼほぼひっかけだ。
力強く振り抜いてくるという先入観を捨てなくてはならない。
ワンテンポズレて連撃。
合わせて打ち払うことで相手の体勢を崩しにかかる。
腕を狙って振った剣は打ち落とされるがこちらも胴狙いの剣を払う。
互いに凄まじく足を動かしながらのせめぎあい。
というか止めたら絶対斬り裂かれるので私が動かされているというか。
主導権が握れない……!
ただ逆に言えばだ。
向こうは主導権を握り続けるために若干の無理攻めを強いられている。
アンデッドに疲労の概念は薄くともスキをさらさないかと言えば違う。
正確には何度も打ち込めそうなのが見えてはいる。
ただその前に私の方に木剣が来るかスキが潰える。
ああ辛い!
けれどこの瞬間なんともワクワクしてしまう自分もいる。
乱打に見えて1打1打通してきそうな攻撃を弾ききり。
目の前に挿し込まれた刃を毛皮を散らしながら首をそらす。
喉突き……!
だけれども突きの動きはスキが大きい。
有効位置に振るうには時間がかかる。
もちろんこれは露骨な誘いだ。
ここから何度も転がされている。
だが防御が手薄くなるのも事実。
ならばわかって踏み込むのみ。
すれ違うように強く前へ。
やっぱり入れてきた……返し斬り!
木剣を回すようにこちらへと振るっている。
身体もわずかに傾けている。
これで攻めるように振るうとなんと敵の木剣に絡め取られてしまうのだ。
そんな不思議技術は見ても対策できない。
ならこう。
さらに前へ!
「ムッ」
絡め取る前提だった木剣は私の近くをさまようだけになった。
そして私はスキルは出来得る限りなしなため"鷹目"もなしで背後をちらとみて。
伸ばしたイバラを振りかぶる。
そう。
こっちはこっちで体勢に大きく左右されないアドバンテージがある。
もし振り返ってから切ろうとしたら頭を正面から叩かれるだけだ。




