六百八十四生目 機能
鍛冶場なのでとにかく暑い。
そしてやたらと音が響く。
魔物によっては暑い通り越して熱いものもそこらにゴロゴロあった。
「今、火山内を探索しているときみたいだなあ」
「火山というのは、こんな気候なのか?」
「まあ、場所にもよるけれど。ただ、活火山内部はそれこそ灼熱で、対策装備なしだと全身が焼け焦げちゃうかな。今はちょうど、対策装備をして少ししのげたくらいの感覚」
「なるほど……俺達が扱う鉱石はそういうところから取れるとよく聞く。ぜひ1回は自分で採掘をしてみたいな」
鉄鉱石レベルなら採掘場らしいところでたくさん取れるだろうけれど貴金属やそれこそ魔銀なんて火山地帯が一番とれるみたいなのは聞いた。
まあ火山の迷宮とやりとりがあるアノニマルースならではなのかもしれないけれど。
そんなこんな雑談していれば時間のかかる鍛錬とは言え小物程度すぐに形ができあがる。
いやこれは私だからとか普遍的にとかではないな。
このスキルが込められた一式があって初めてなしえることだ。
一気に冷やし金属が音を奏でる。
本来ならここからめちゃくちゃ大変らしいのだが……
軽く磨き拭うだけで成立した。
しかしその出来た小物を見てサイクロプスリーダーは首をかしげた。
「これは?」
「アクセサリーだよ。腕輪だね。まあ装飾もなにもないから地味なんだけれど……」
「なるほど。あまりに小さな輪だから、何かの部品かと思った。ミスリルの腕輪は豪華だ。いいのではないか?」
「それと、装着者に神のちょっとした加護と土の加護、それに自然変換できる量でだけ常に装着者を魔法結界で守るはずだよ。私が作った感覚どおりならば」
「いきなりとんでもないマジックアイテムになったな……」
サイクロプスリーダーがつまむ小さな輪っか。
サイズ比がおかしいだけで実は腕輪だ。
あと自然変換とは身につけた者が自然に発する量プラス空中にただよう量を勝手に吸い取り利用するということ。
さらに合金化銀らしく内部ストックされるエネルギー量もかなり多い。
よほど激しい切り結びをしばらく続けねば平気だ。
まあ想定している使い方はそんな防具を着ろといいたくなる戦闘ではない。
例えば日常でうっかり小指をぶつけたりうっかり指先を切ったり。
針仕事で刺したり上から荷物が落ちてきたり。
そういう避けようと思っても下げきれないものに大しての対策品だ。
そのことを話したらしげしげと腕輪を眺めていたサイクロプスリーダーが深いため息をつく。
「そんな贅沢なつかいかたを想定するマジックアイテムなんてないぞ」
「そ、そう?」
「そもそもよっぽどのことでなければ出来ない品が、こうもあっさりできるとはな。なんだか異様に品質も良い。なるほど、これが加護の力というものか? たまに扱う品に、こういった加護の力がある素材も使うことがある」
「多分、そうだと思う。私の一族は生まれつき加護持ちだしね」
サイクロプスリーダーは神力を感じ取ることはできないはず。
だから込められたエネルギーを感じているのは土の加護とかも含まれているからだろう。
私も風の加護付きのスカーフつけているし。
「加護が我々にはないが、代わりに鍛冶の力に愛されている。加護すら練り上げて作り上げられるのなら、それが1番だ」
「そうだね……剣のゼロエネミーも、キミたちが打ってくれたおかげであんなに強くなれたし。勇者の剣もね」
「あの仕事はいい思い出だ。複数の実力者がつどい、実力をいかんなく発揮して作り上げる。それができる機会はそうそうないからな」
あたりまえっちゃあ当たり前だけれど大半の作業は数打ちになる。
数打ちもそれはそれで大変だけれど……
1つの究極に挑む作成とはかなり質が変わってしまう。
つまり雑魚を蹴散らすのと自分だけではどうしようもない強敵に挑むのの違いだろう。
多分稼げる経験の量も段違いなんだろうな……
サイクロプスたちも気が向いたら何か新しく作るようにはしているようだけれど強敵に挑むような品を作るのは難しいだろう。
「それでこれは誰のものにするんだ? 販売か?」
「ううん。渡す相手は決まってて……」
「これ、僕にですか……?」
場所を変わって。
ちゃんと仕上げた腕輪を持ちこんだのは他の施設よりも頑丈そうかつしっかりとしたところ。
ここでは色々と重要な役目のある施設が集まっているものの銀行施設もある。
つまり警備が厳重でないといけない施設のつどいだ。
その奥にある個人用面会客室。
この部屋でたぬ吉と会話していた。
たぬ吉は私から受け取った腕輪をしげしげと眺めて。
ぶかぶかながら腕へとはめた。
「これちょっと大きい……うわっ!?」
たぬ吉が上腕まで上げると腕輪がギュッと縮まった。
よしよしちゃんと機能しているな。




