六百八十三生目 趣味
スキルの再現はいくつか種類がある。
まず物理的な再現。
たとえば私の"千里眼"だが……
これは望遠鏡という形で似た効果は得られる。
レンズガラスを使ってやっているわけだ。
そして封印式。
そのスキルの力をものに封じておくタイプ。
武技の使える剣なんかが該当する。
この鍛冶セットは後者にあたる。
サイクロプスが当たり前のようにやるレベルのスキルを再現できている。
私は今鍛冶師の世界を見ている……!
彼らの中で当たり前だと考えられすぎていてうまく外に伝わってなかった部分含めて。
いやあめちゃくちゃ楽しい。
熱で暑い以外楽しさに振りまくったような鍛冶だ。
加工できる温度じゃなくなったら火床へ。
ここらへんもスキル感覚のように道具たちが感覚補佐してくれる。
まあそのまえにサイクロプスリーダーが一番適切なタイミングで処理してくれるんだけれど。
市販するとしたらこっちの感覚たよりになってくる。
というより実はすでに量産体制には入っている。
ただテスターは多ければおおいほど良いということだ。
私も紛れこんだだけ。
「すごいなあこれ、こんなに簡単なら、店先で鍛冶教室開いて、鍛冶師が見守る中打つなんてこともできるかも」
「鍛冶教室? そもそも我らの種族からすると、需要がよくわからないのだよな」
「一族みんな打てるからね……」
特に良いと思うのはこれが最底辺の部分を補強する力になるということだ。
サイクロプスたちは幼子ですら鍛冶がめちゃくちゃうまい。
一族でいちばん下手というやつでもおそらくニンゲンたちの弟子レベルはある。
なので常識はそこで固まっている。
他の種族がそこまで打てないとは思っていないのだろう。
あとはまあ楽しさの感じる方向性もあるよね。
雑談しながらでも打っていたらいい感じの形に仕上がった。
そのままいっきに冷却。
不可思議なことにそれだけでちゃんとした品物ができていた。
とはいえ単なる鈍い銀色の金属板である。
これが合金化銀インゴットだ。
サイクロプスリーダーが出来上がった品をひょいとつまむ。
これは量が少ないからではなくサイクロプスリーダーが巨人サイズゆえだ。
光にかざしてあちこち見たあともとに戻した。
「うん。全く問題がない。天然のミスリルにはない、美しいいぶし銀だ」
さすが作る側なのか同じものの表現でも言葉の選び方が違う。
彼らにとっては合金化銀は自分たちで努力し作り上げたものだから。
「よかった、まずは最初クリアだね」
「ただ……」
「ん?」
「凄まじく強いエネルギーが金属に宿っているな。品質と比較した場合、かなりだ。元々ミスリルはエネルギーを込めるが、この段階でここまでは珍しい」
「そ、そうなの? よかった」
何か不具合があるかと思った。
正直出来の品質としてはプロ観点からしたらとてもじゃないけど低いだろうし。
エネルギーと聴いて思いついたのは土の加護だ。
おそらく私の作業中に毛先の1つ2つでも入ったのだろう。
そして一瞬で溶けるけれど……
私の土の加護と反応をしあって打つたびにリンクしパワーを高めたのかもしれない。
正直私も土の加護についてわかりきっているわけではない。
ただ朱竜に連なる加護なのはわかった。
身は朱竜で神使は蒼竜仲が良いのは祖銀とはこれいかに。
私自身もめちゃくちゃだとは思うが実際そうなのでしかたない。
この調子だとのこり2竜もこわいな……
まあともかく今は鍛冶打ちだ。
今度は合金化銀インゴットを加工していく。
また火床へ送った後しばらくして火から上げる。
今更ながら多少では燃えないのと熱くなく痛くないトゲなしイバラの組み合わせって便利だ。
ドロドロのそれを金床にうつして。
マジックでテクニカルなこのハンマーでうつべし!
カーンカーンとリズム良く音が鳴り響く。
「そういえばなのだが、最近迷宮外の近くの街に、ボランティア団体が来たらしい」
「ボランティア団体?」
「なんでも、教えに従って各地を巡り、様々な慈善活動に取り組んでいるらしい。世の中、常に物騒だからな。たまにはそういった優しい奴らがいてもいい」
「なるほどなぁ……」
私は雑談に相槌を打ちながらハンマーを振り下ろすのに集中する。
サイクロプスリーダーはそれを覗き込みながらも適度に話を振ってくれた。
余計なことを言って仕事みたいになるのを防ごうとしているのかな。
トンテンカンと快音を響かせながら叩き込んでいく。
久々に力を込めて武器を振り下ろした気がする。
ハンマーだけれど。
この熱くてただひたすらに打ち込む時間がなんとなく愛おしい。
私も冒険者以外のやるものをもっておくべきかな?
なんだかこのままだと書類仕事に悩殺されるようになる気がするんだよね。




