六百八十二生目 再現
パーティーが開けて。
こんにちは私です。
久々に鍛冶施設の前にいる。
鍛冶ギルドでは大型の製造機も多数導入している。
しかしここの炉はそことは別。
小型でひとり用。
設備は一通り揃っており誰でも作れるようになっていた。
「まだ本調子でないんだって? 全く大変だな」
「うん、たまにはこういうのもやって英気を養おうかと」
話しかけてきたのはサイクロプスリーダーだ。
ひとつめの巨大ニンゲンみたいな魔物。
ちゃっかりトランスしたらしく昔と姿が違う。
さて。
私は昔にはたくさんの製造品があった。
しかし今やすっかり作らなくなった。
なにせ私の製作は必要に追われての面が大きかった。
製作も楽しいけれどそっちよりも私は冒険で誰かを助けるほうを選ぶ。
そして忙しさに悩殺された。
この世界は大なり小なり常にどこかで危機をかかえている。
前世よりも遥かに命をかけなくては……いや命すらかけても解決できるかどうか怪しい危機がゴロゴロしていた。
よくうぶなころはもうちょっと上位の力を持つものたちがどうにかしてくれってことを思ったんだけれど……
いざなってみたらなんだかずっと仕事片付けても新たな危機が増えている。
それが国と国との軋轢とかならまだこっちの担当じゃないにしろ個人と個人や神問題さらには世界を巻き込む騒動。
暗躍する組織に迷宮が絡んで複雑化する話。
兵と冒険者はスキルの取得方向も鍛え方も知識もまったく違う。
どうしようとないとは言えガンガン依頼が舞い込んできてゲンナリしないといえば嘘になる。
そこでリフレッシュもかねてこの製造だ。
気兼ねなく自分だけの時間を使うという贅沢な時。
ここでは命をかける必要はない。
まあ私はスキル関連に製造業に向いたものが少ないあたり天賦の才能はなんとなく底が見えているけれど……
「ま、とりあえずやっちゃおうか!」
「ああ、今回のは最新型の鍛冶キットだ。俺たちのように極めるにはやれることが少ないが、とりあえず作ってみるという点では優れている」
「打って見るかぁ」
ここで私が前世知識を再現しておおっ! となるのはなんだかそういうお約束なのだけれど。
残念ながら必要ともとめられた知識はいつも引き出しているし逆に漠然としたなかから便利そうな知識を引き出せるような頭の作りもしていない。
まずは基本的なインゴットづくりからにするかな……
この鍛冶セットは最新式の魔法鍛冶セットだ。
使い手のエネルギーや魔力石の力によって稼働する。
1番の特徴としては工程がめちゃくちゃ楽ということか。
まずは素材を装置の容器に入れ込む。
今回は合金化銀インゴットを作る。
銀鉱石をベースに素材を投入。
合金化銀は魔銀の性質を比較的安価な材料たちで効果を再現したものだ。
見た目がただの銀よりやや渋めになるけれど性能そのものはほとんど変わらない。
魔銀は加工すると美しい銀白色であわく輝くので威厳を得たり美しさを得たりするのに使われがち。
材料をいれたものを炉にかける。
この時の温度は私の送り込む力によって変わる。
まあ最適な温度はサイクロプスリーダーが教えてくれる。
「よし、今だ」
「それっ」
炉から引き出すとドロドロになった材料たち。
当然このままではだめ。
本格的な鍛冶師ならここから大量の工程を踏むが……
私は金床の前に立つ。
サイクロプスリーダーがその上に溶けた金属を流した。
すると不思議なエネルギーの流れが起きる。
そして光が淡く放たれた。
私は想いを込めて槌を振るう。
いい音を立ててほんの少し冷えて固まってきた金属が跳ね返す。
すると光で最終的な形とどこを叩けばいいかがなんとなく表示された。
型で作れる量産ではなく鍛造になるのが個人向けと呼ばれるゆえん。
そもそもここまでの工程はサイクロプスたちにとって出来て当たり前の扱いだ。
「ほほう、ちゃんと機能しているな?」
「うん。魔法じゃなく能力の再現って言っていたけれど、これはすごいね」
私はなるべくガイドに合うようにガイドのとおりにトゲなしイバラで槌を振るう。
ガイドというのは視界に表示されているものだけではなく。
この金床や槌たちが何か言葉ではないもので教えてくれるのだ。
ざっくりとはしているけれど……これは革命じゃないだろうか。
うちの研究チームと鍛冶ギルドはとんでもない開発をしてしまったかもしれない。
スキルの再現。
これは元々魔剣にスキルが封じ込められて使えたりするものの派生系だ。
希少ではあるものの世界にはそういったスキルの再現ものがある。
というか私たちが普段何気なく使っているものもこの世界の住人からしたらスキルの再現が多いのかも。




