六百七十九生目 約束
私の体は一切の本来持つレベル相応の力が失われていた。
ちなみにこれは魂の衰弱化が根本的な原因でもあるので一回死んで再生しても治らないらしい。
ホルヴィロスが診た結果だから間違いないだろう。
あと肉体が不調なのは本当。
色々機能不全を起こしているらしい。
治されるものと私が自力で鍛え直すものがある。
今の私はいうなればレベルマイナスから本来のレベルまで高速で鍛え直している状態。
レベルアップとは壁を貫く行為。
しかし今の私はその壁は遥か先まで空いたまま。
本来天井を突き破るのは中身のエネルギーがミチミチに満ちて外れるので気にすることはない。
今中身だけはないので再補充しなくてはならないのだ。
打ち破るのに使うエネルギーは必要なくまた体や魂が元の状態を覚えている。
この脳じゃない記憶が大事で彼らは最効率で元の状態に戻ろうとする。
肉体さえ健康ならばもとに戻っていくのだ。
その補助がリハビリ。
肉体や魂は結果的に動いたほうが早く治る。
そして動いた後はたっぷり回復させる。
その繰り返しらしい。
なんとか私の中にフルチャージができるようになるまではこの25メートルしかない距離を必死に歩むこととなる。
足が震えて……!
腕の力で支えているはずなのにまるで支えになっていない……!
ホルヴィロスの補助がなければまともに歩めやしない。
説明は聞いたけどちゃんと治るんかなあこれ!
私はそれから周囲の時移り変わりを感じたり聞きつつ。
それからさらにひと月の時間を再訓練の時間として要した。
その間朱竜の発見報告はなく。
私は朱の大地でとある国境にきていた。
報告をしに。
「――という風に戦いは幕を閉じました。その後は知っての通り、未だ朱竜神の復活はありません」
「ナルホド……王をも殺す刃は、いつも大剣で切り拓かれてナイフでトドメを刺す。まるで竜殺しの英雄譚と同じだ」
それを言われて思い出した。
宝石剣ドラゴンキラー……
大ぶりの刃と小振りのナイフがセットの剣。
今では展示品としての生涯を送っている。
目の前にいるのはチョッカクさん。
自慢のひげを撫でつつ答える。
こう見えて……いやむしろ見た目通りに?
軍のおえらいさんだ。
秘密裏に朱竜の詳細な話をするというもの。
朱竜信仰が強い国家の中で朱竜信仰を考えた者。
盲信をよしとしなかった。
きっと彼は……
「なので、今は朱竜を探索している段階です。おそらくは、そろそろ復活しているので」
「ふん、そうか……遠い地のことを、そこまで詳細に知らせてくれて助かった。俺も元は征火隊のはしくれ、気にはなっていた……現場からはとっくに退くハメになった身ではあるがな」
や……やっぱり元関係者だ!
調べてもなかなかそっちの情報は出てこなかった。
調べる範囲の国が遠すぎる……盲点だったかなあ。
「やはり、征火隊は当時から?」
「ああ、今なら言っても良いだろう。例の、その作戦を推し進めていた。なんなら、俺よりもずっと前の時代にな」
「でしょうねえ……アレだけ大掛かりでしたから。現地の時空嵐も消えたし、採掘場もできたし、しばらくは良いことの方が多そうですね」
「そうだな……結局、朱竜様は最期に焼き払われた後の再生を約束してくれたわけだ。皮肉なことにだがな。なんとも、そこまで詳細に語られても、どこまでも底が見えんお方だな……」
「あんがい、そこまで深くは考えていないのかもしれませんけどね。頭が良いのと、考えを熟考の底に沈めるのは似ているようで違いますから」
「なるほど、それもそうだ。熟考に熟考を重ねて、それをそのまま表に出す判断をするのは珍しいことではない、か」
蒼竜もそのような感じがあるんだよね。
たくさんのことを考え続けているフシはある。
ただ別に隠す意思がない。
そこらへんは性格の問題だ。
チョッカクさんは自慢のヒゲを撫でつけつつ深くため息をつく。
それは落胆というよりも……すべてが終わった安堵のようで。
「……我々のような、国境を守るものにしてみれば、朱竜様の攻撃は常に頭を悩ませるものだった。なぜそのようなことをなされるのかと思えば、まさか過去の約束事とは。いくら自身の使いにしたものとはいえ、普段こちらをなんとも思っていない風を装って、随分と気にかけていたのだな……」
「彼らは価値を平等に見るのが難しいだけで、口で言うよりもこの世界に生きるものたちのコト、嫌いじゃないんだと思いますよ。それこそ、自分ではなくニンゲンたちが魔王を倒したことを、ずっと気にかけて嫉妬すらするほどに」
「ふむ……む? 彼ら?」
「あ、いえ、言葉のあやです」
危ない危ない。
なんの気無しに複数形にして全世界の宗教に喧嘩売ってしまった。
違うんです。親しみの証なんです。




