百七十二生目 実験
掘る。
そう単純に言っても深く掘ったりむしろ地上に掘り返した土で何かを作るにしてもあまりにも難しい。
……森と土質がまるで違う!
「かたいね……」
「堅い……」
モソモソと掘り返している今なら分かる。
この土とんでもなく堅い。
どこを掘っても直ぐに岩か何か? というほどに堅い土に当たる。
私なら頑張れば何とかなるがハックではムリだ。
もしやこのとんでもなく頑丈な土が大きな植物が育つのを阻害しているのか。
荒野と名乗る迷宮なのは伊達ではない。
アインス、どう?
(ダメだねー、どこまでも似たようなものだねー)
そうか……ありがとうアインス。
地魔法"ジオラークサーベイ"で調べてもどこまで行っても似たようなものだとの診断。
これでは窯など作れはしない。
うーん……
「森と同じ方法を取るのは難しそうだね……」
「どうしようローズお姉ちゃん、このままだと焼けないよ!」
周囲にあるものは……石に岩に低い草木。
こういう時は……そうだ。
「あの妖精たちに聞こう、何か知っているかも」
「いいねローズお姉ちゃん!」
さっそく空魔法"ファストトラベル"!
妖精たちの住む泉へ到着。
相変わらず恵みの泉はこんこんと湧き出て輝いている。
「あ、こんばんはー!」
「見たよ、いっぱい棲み家が建っていたね!」
「夜分遅くにお邪魔します〜」
いつもの妖精ふたりがすっ飛んできた。
他の妖精たちも歓迎ムードだが大半は寝ている。
まあそりゃそうか。
ハックと一緒に恵みの泉をいただく。
疲れに染み渡るようだ……
「おいしいねーこれ!」
「うん、元気になった」
ひと息ついてから妖精2匹に現状を説明した。
あの岩のような大地はどうにかならないものか……
「かくかくしかじか……ということなんだ。何か良い方法が場所か知っている?」
「うーん……」
おとなしい方の妖精は考え込む。
やはり難しいかな?
「ああ! それなら何とかなるかも!」
「本当!?」
その代わりにそう言ったのが活発な方。
そう言って妖精が指したのは泉だった。
泉……?
妖精たちと共に窯を掘るための場所へ戻ってきた。
私は空魔法"ストレージ"の亜空間から水瓶を取り出す。
中身は泉の水だ。
「ようし」
泉の水が入っている水瓶を空魔法"フィクゼイション"で固定。
集中して念力のように動かしていく。
「おおー、すごい、浮いてる!」
「ちょっと離れててねー」
いきなり空にかっ飛ぶかもしれないからねー。
慎重に動かして傾け少しずつ中身を撒いていく。
「これで本当に地面が柔らかくなるのかしら…・・・?」
「たまたま見つけたんだけれどネー」
そう、この泉の水を撒けば地面は劇的に柔らかかくなるそうだ。
しかもしっかり乾かすとまた固くなる。
それなら窯のように使えるはずだ。
「あんた泉の水で遊んだ……?」
「へへへ」
妖精のコントを横目に水が染み込んだ土壌を確かめる。
ザクザク掘る。
前はすぐに頑強な層がやってきたのだが……
「おお、掘れる掘れる!」
「本当お姉ちゃん!? ……うわあ柔らかくなった!」
「お役に立てたみたいで良かったです!」
「みんななら泉の水は使い放題だから、ドンドン使ってよ!」
ありがたいお墨付きももらえた。
今は私が魔法で撒いたが水の運搬さえどうにかできればハックでも水をぶちまけることは出来るはずだ。
「そうだ! 妖精のみんなもやってみない? 面白いよ!」
「うん? なになに!?」
「私たちに出来ることならお手伝いさせてもらいますね」
ハックの誘いに妖精たちが食いついた。
その後もトントン拍子で話がまとまり明日の朝からは妖精たちが通ってハックの手伝いをしてくれるらしい。
妖精は手と腕があるから随分楽になるだろう。
とりあえず今日のところは休むために再び妖精たちの群れに連れ戻した。
ただし今度は徒歩だ。
次から自力でくるとは言え誰もが転移魔法を使えるわけではないし水を運ぶとなると余計に徒歩でないと難しいからだそうだ。
道を覚えてもらい送り届けると朝日が登りだした。
ということは小さい魔物たちの街がある火山の迷宮は夜。
そろそろ九尾の準備は良いかな。
私は"ファストトラベル"を使って九尾の家へとワープした。
「こんばんはー。出来ました?」
「おう、ちょうど良かった。出来たぞ、さあ実験じゃ」
そう言う九尾に連れられやってきたのはいつもの倉庫。
……ではなかった。
地下の隠し部屋だ。
そこには前見た『疑似共有魂』の他に謎の機械。
全体的に黒っぽくそしてまたデカイ箱だ。
黒い部分のいくつかはあの穴子の皮を使っているのだろうか。
「博士、これは?」
「簡単に言えば新型の疑似共有魂なんじゃが……まあ従来のものと機能がそこそこ違うの。とりあえずこれをつけてみ」
九尾が差し出したのはリングだった。
つけるのはどこでも良いそうなので腕につける。
「これでお主は新型機から受信出来るようになった。距離の制限はほとんど無いようなもんじゃが、その代わりその端末がないと受け取れなくての」
「へえ……これで小さい虫のようにあまり知能がない魔物でも何とかなるように……」
「まあまだ動かしていないがの。それとこれはお前さんの能力を一部利用する。言語をスキルで学習するんじゃったかの? 今からそれをこの機械を通して再現するからの。付き合ってもらうぞ」
なるほど私のスキルでみんなに互いの言語を覚えてもら……
ちょっと待って、あれ初期段階だと頭割れそうなほど痛むんだけれど。
というか機械通して再現とかできちゃうの?
そんな不安そうな感情を読み取られたのか九尾が悪い顔で笑う。
ああ、だからこその実験か。
長い実験になりそうだ……