六百七十七生目 事情
食品管理の徹底化はどちらかといえばみんなの意識改革に役立っていた。
ニンゲンがニンゲンを見てうまそうかまたはうまそうに見られてないか気にしないように。
アノニマルース内もどこかしら尖っていた空気感は今かなり少ない。
もちろん新入りはまったくわかってなかったりするのでそこらへんはまだまだ。
やっぱり大きいのは話が通じること。
話通じる相手を食事対象として見ることはできず文化が形成されてからはほとんどなくなっていった。
とにもかくにも今は目の前の肉だー!
食べよう。
……味付けはコショウだけでいいかな。
コショウの中に閉じ込められた辛味がにおいとして放たれる。
うーんいいかおり……
肉の臭みを打ち消す。
コショウも帝国からどんどん輸入できていて栽培もしているらしい。
なので黒胡椒と言えどわりと安価に使えるのだとか。
これもとてもおいしく食べる。
ふぇ〜。
さすがにおなかが落ち着いたかな。
さっきまでの無限に食べられる感覚はなんだったんだ。
わからない。
わからないがホルヴィロスがそういえばこっちに来ているという話があった。
だったらそろそろ……
「あ、いた!」
「ホルヴィロスー!」
ホルヴィロスがダッシュで角を曲がってきた。
何を急いでいるんだろ。
そうこう思っているうちにホルヴィロスのツタに絡め取られた。
そのまま高速で運ばれる。
あれ?
「食事をするのはいいけれど! まだ起きる予定よりだいぶ早い! まだまだ安静にしてなきゃだめだよローズは!!」
「えっ? でもこんなに元気だよ?」
「本来ならそんなに早く動けないんだよ、麻酔の効果も残っているみたいだし! ローズは多分記憶にないだろうけれど、帰ってきたときは骨折しているわ内臓にもダメージ入ってて、何より肉体細胞がありえないぐらい疲労、破損があってめちゃくちゃだった! 起きるまで1週間もかかったのに、そんなすぐにリハビリもなしで活動したらだめだよ!」
「フンフン……ふん!? 1週間……1週間!? えっ、私1週間も寝ていたの!?」
そこで私はなんとなく夢の世界から帰ってこれた。
私は植物ベッドの中で溶液漬けに逆戻りしつつこれまでの経緯を聞いた。
まず時間は1週間ちょっとたっている。
ドラーグとコロロはむしろトランスしたばかりで健康。
すぐにその場で起きてピンピンしたらしいが……
逆に起きない私を発見した。
そして大地の変化も。
大地からは森が形成されるほどに植物が湧き出した。
さらに死んだはずのニンゲンたちが土から取れたらしい。
なにそれこわい。
ちゃんと本人なのがチェックされた。
いわく大枠での再生行為を受けているらしい。
ざっくりいうとすごい早い時間で死から腐敗そして分解さらにその栄養を集めて植物みたく種から一気に成長。
一瞬土塊のようなものだったがどんどんと肉へと変化して生物に。
元の記憶と魂それに心も再生させられた。
戻らないものも多い。
まず兵器郡。
コイツラはこわれたままだ。
そして飛空艇。
そらとぶ国家予算はおじゃんとなった。
まあ完全にゼロになったわけではなく……
巨大コアやら設計図それに積んであった備品はほぼそのまま使い回せる。
もちろんそれ以外も高い。
高いけれど……代用がきかないほどではない。
きっといつか復活するだろう。
死者は治ったが傷を負ったものは治らなかった。
おそらくはこれも再生のメカニズムのせい。
朱竜の再生は破壊の前には来ないのだ。
そもそも朱竜のレベル189エネルギーなんてどう考えてもちょっとやそっとのニンゲンが受けられるものじゃない。
大神の膨大なエネルギー量は大地全体で分割してやっとなんとかだろう。
そして当然朱竜自体の肉体は凄まじい利益になっているらしい。
なっている……現在進行形なのは。
なんと朱竜の亡骸は鉱山のような扱いになっていた。
立ったまま死ぬといういかにも朱竜らしい最期を迎えたが実体は首が痛くなるほどに高い背を持つ山とも言える。
さらにアレだけ大暴れしたにも関わらず未だ内部は熱まみれ。
暴走して熱爆発を起こさないようになっただけずっとマシだけれど。
というわけで現場では足場が組まれ冒険者含む大量人数が動員されて安全を探りつつ採掘している。
複雑怪奇な朱竜の肉体内部はかなり苦戦しているそうだけれど。
また後世に残さねばとたくさんの絵や写真も取られているらしい。
当然最初のころは御神体を掘るなんてと反発はあったらしいが……
征火隊ひいては宗教関係者トップの面々そしてフォンダター派正式発表で許可がおりた。
まず行為が教えに反しないこと。
そしてむしろ朱竜自身が話していた言葉から推薦されることに言及した。
これもまた虫ケラの戦いで力なのだから。




