六百七十四生目 決着
やっぱり朱竜が近いとさっきみたいに魔法でどうこうはしにくい。
あれはかなりの集中が必要だった。
今はドライとアインスそしてツバイの意識全員でよけきるのが限界……!
(マジで死ぬ!)
(もうからだがねじきれちゃうよ〜!)
そのとおり朱竜の攻撃をギリギリ避けるために身体をグルングルン回して避ける。
前に出過ぎた時は身体を2足に。
頭を狙われた時は4足に。
本来こんなに細かく切り替えて避けることなんてないってぐらい1秒の間に何回も切り替える。
そのせいで肉体が明らかに悲鳴あげているけれど目の前にある脅威をよけるためにねじふせている。
「ッ……!」
『今のも避けるか!』
危なかったぁ!
めちゃくちゃ早く小振りして端だけ当てにきていた。
イバラではじき自分があえてふっ飛ばされることでスレッスレに生き残る。
もはや何十と死んでもおかしくない攻撃が放たれている。
朱竜の全身にはヒビが入り光が漏れ出ていないところなどない。
それでもイキイキとしたその目はいつでもこちらを殺せるんだと言っているようで。
……いきなり目の前から消えた時はキモが冷える。
『どこ!?』
「ッ、上!」
『正解だ!』
遥か高く。
朱竜はずっと地上に展開して動いていたから完全に不意をつかれた。
それはそうだ……早く動けるということはそれだけ空にも行ける。
遥か上空でたっぷりタメた息と炎を口に携える朱竜。
向こうも体感でわかっているのだ。
限界が近い。
勢いよく吐き出される炎は球体となってこちらに降り注ぐ。
実態はないはずなのに。
その光景と威圧はまさしく隕石郡。
本能的に恐怖を掻き立てられるその光景に身を任せるよう避ける。
どう考えてもコレがほとんどラストの大技だ!
ドラーグと合流し徹底的に弾き落とす!
全弾自分たちを狙うということだけわかっていて回避は出来ないと知っていればこその対処。
おぞましい熱量が私たちを襲う。
「ッ!」
「ンンッ」
「グッ……!」
もはや互いに何かを言い合う余裕がない。
炎を掻き落として消して吹き飛ばし次のやつに対応して。
ドラーグもチャージしてそのチャージした熱で隕石炎と相殺して。
落ちろ……落ちきれ……
落ちてくれぇー!!
ものすごく長いようでいて。
実時間はじつは短いだろう。
いつのまにか炎の弾幕はおわっていた。
私たちはほぼ燃え尽きかけた命をひきずるように荒く息をする。
お……終わった。レベル180の猛攻が。
これで後は……朱竜は!?
「空に……いない!」
「パパっ」
『あっ!』
油断したつもりはなかった。
というより今最高に気を張っていた。
だけれども疲れと痛みと苦しみで揺れた瞬間を狙った行動。
朱竜が目の前にいた。
最後の最期。
本気を超えた最後の1撃。
下がった私の背後には岩山。
追い詰められていた……!?
魔法のセットは今さっきの連打で使い切り……!
そこには一切の余分さを削ぎ落としたひとふりの刃。
鋭く尖った刃はもはや壊れる寸前の脆さ。
それでも私の命を奪うには問題のない攻め。
もはや宇宙をさがしてもこれほどまでに強いと思える相手はいないかもしれない。
私は……呑まれていた。
その美しさに。恐ろしさに。
最強の威容に。
大地そのものの迫力に。
星1つ潰すような能力に。
だから。
光が目の前で止まった時に驚いた。
やがてその光が失われていく。
最強必勝の神が……崩れていく。
『成程……ククク』
「まに、あった。パパとおんなじところ……弱点」
ドラーグも接近しているがトドメはドラーグじゃない。
それよりも早く正確に。
朱竜の喉元に槍が刺さっていた。
まるでサイズ比髪の毛みたいな槍。
刺さっているのは逆鱗。
竜の触れてはならぬ場所。
元々例え温厚な竜の神々でもここに触れられると怒り狂うという慣用句すらあるところ。
単に逆さな生え方をしているわけではない。
身体構造上生えなくてはならず生えていると言われている。
逆鱗は構造上の要……つまり弱点をまもっており触れられると過敏な反応で回避するように生態的な作りとなっていると聞いた。
つまりニンゲンで言う頸動脈。
そこに槍が刺さる。
当然普段の朱竜からしたらほとんど効かないただ不快な行動。
しかし全身ひび割れ逆鱗のある位置が割れて輝いて居る今。
死へのちょっとしたひと押しが決定打になった。
朱竜の身体から光が失われていく。
身体の一部鱗が剥げ落ちる。
それでも朱竜は立ち続けた。
『愉快な気分だ』
神域が解除され元の世界へ戻っていく。
朱竜はそれ以降動くことはなく。
最強は今ここに堕ちた。
「ってなんだ!?」
『ええっ、揺れが!?』
「まさか、もういっかい……?」
いやさすがにそれはないはずだけれどこの揺れって何が!?




