六百七十三生目 音速
「ここまでみんなで繋いできたんだ、絶対に勝たせてもらうよ! それでこそ、朱竜に答えを見せつけられるんだから!」
『ほざけ! 我は負けん!』
朱竜の心に勝つ。
元は世界壊滅を防ぐための戦い。
けれど朱竜が言ったようにそれ以上に戦い自体へ意味が増してきた。
この場がそういう戦いに駆り立てる気持ちにさせているのかもしれない。
けれどそれ以上に。
私は朱竜に勝ちたい!
勝ってたっぷり反省してもらう。
この長いながい……
神話時代から続く戦いを。
そして朱竜自身の生き方を。
私たち虫けらのごとき生き様を!
「パパ……!」
「やあぁー!!」
『まだ立ちはだかるか!』
朱竜は瞬時にワープするような速度で移動する。
だけれどもよくよく見れば……そう1度目は見逃してしまったけれど。
あの巨体がワープそのものをしていない限り移動はわかる。
問題は緩急なのだ。
ゼロからの最高速度到達が早すぎて脳が認識しきれない。
それが朱竜がワープするように感じるタネ。
これはタネが割れても純粋に速いから強い……!
今"時眼"で私の速度を引き上げ"止眼"で認識速度を限界まで上げている。
朱竜がゆっくり私に迫る……そこか!
"止眼"は使った時間で頭に来るがまだ平気。
コツはこまめに解除すること。
というわけで解除!
「やあっ!!」
『ほう!』
大きく上振りでくる。
それを横に転がって回避。
レベル140。生命力半分。
……! 次が速い!
絶対に"止眼"で逐一チェックし軌道を読み切る。
跳ぶと足元を横薙ぎでえぐられていた。
すぐに突き。
欲を出して浮かび続ければ迎撃される仕組み。
即降りる。
頭上を突きが通ったのを見てひとおもいに距離をとる。
気づいた時には朱竜が両腕を凪いでいた。
さらに炎。イバラをバネして全力で後ろとびしつつ大イバラで受けて即消……あつつつ!!
やばい……一瞬で灰になって私の身体を灼きそうになった!
大丈夫……ギリ。
私の視界が塞がるのを利用して朱竜が距離を詰める。
大丈夫。"鷹目"で見ている。
朱竜が両腕でハグするような動き。
通称ハサミギロチン。
しかし朱竜は直前で少し横へと追いやられる。
ズレた分私が楽に回避できた。
飛んできたのは……毒と暗黒が混ざりあったブレス。
『まだまだぁ!』
『貴様から先に倒れるかっ!』
ドラーグと朱竜の直接対決……いやあれはまずいよ!?
朱竜はずっと強くなっている。
そしてドラーグは的が大きくなっている。
惹きつけてくれたのは良いけれど回避ができな……ああそうだ。
私なら。
さっきの私がやった力ならば関係ない。
朱竜が瞬時にドラーグの元へ。
ドラーグは受け流そうとしているがすでにレベル160には到達しているだろう朱竜の動きに対応しきれるとは思えない。
だからここはシンプルに。
「土魔法"ストーンショット"」
それは指で弾くように。
地面からピンと弾かれた石。
土の魔力はあるけれどその上には蒼の神力。
その石は信じられない速度で飛来すると狙いすました先へと跳ぶ。
朱竜が槍のような爪先から出している光。
先に振りかぶる左腕のほうに命中。
そして当たった途端に腕が真横にズレた。
『は?』
『えっ?』
一回真横に行ってから振り下ろされれば当然そこには誰もいない。
むしろ立ち向かおうとしていたドラーグの拳が先に当たる。
……ぜんっぜん効いてない!
当然流れのように右腕も振られる。
はいもう1粒。
ナメてるわけじゃなくて隠密性や正確性それに命中したときの伝導率が1番いいのがこれ。
むしろ今やっているのはかなりスレスレだ。
この石礫も狙い違わず右腕光に命中。
横薙ぎは下にずれることでかなしく空を切った。
『グッ……こ、この力は! ローズオーラ、貴様か!』
『ローズ様? 助かりました!』
「パパ、でも、もうほとんど相手の動きが見えない……!」
コロロは特に感じているだろう。
レベル差もあるし。
朱竜の動きがより早くなっている。
今の所5回6回と腕を振ったのは全部阻害できている。
炎はドラーグ自身で吸って対処。
この調子なら……
レベル170。8割削れた。
「えっ!?」
『はやっ……!』
『圧倒的暴力の前に、そのような力など無意味だ!』
今目を離していなかった。
それなのに朱竜の姿がかき消えていなくなるかと思った……
来るのが私と想定していたからこそのギリギリ。
生命力をガンガン治した私に向かってくる。
ただまた1発で削りきられそうだなぁ……!
力のあらん限り振るうならともかくどんどんと鋭く正確になってきている。
イバラを使って連続で避けイバラ鎧を使い捨て。
力量が増し続ける朱竜の攻撃を凌ぎきれるのはあとわずか。




