六百七十一生目 無傷
朱竜の一部でも空間ごと膨れ上がらされる。
もちろん無理やりだ。
朱竜の目前では閃光が瞬き顔を灼く。
これで狙いをつけにくくしてなおかつ腕や肩に起こした拡張で痛みはどうせ大したことないだろうけど扱いにくくなるのを狙う。
つまり踏ん張りをきかなくする。
それぞれの効果など僅かだ。
それでも今この瞬間にボロボロの私ができるぎりぎりはここ。
命をかける!
中のメンツはつぎつぎワープして緊急離脱している。
魔物兵ならば私の魔法を借りれるのでまとめて手を繋いでの退避。
ここからどちらかが閃光に飲まれる。
もはや全員無事ではない。
命以上の力を引き出すように。
引き出されるように。
魂が揺さぶられ問いかけてくる。
魔王にも朱竜にすらも凌駕する。
その力は何だと。その心はなんだと。
その魂は。
私は……
私は……!
「生きたいんだ……!」
『何……?』
「生きて、生き抜きたい。生存欲。生存するために、繁栄するために、よりよくするために。そのためならば、命だってかける。自分以外の命と組む。そういうことが出来るんだ。懸命に生き抜くことは……生まれつき神だった朱竜にはできない」
前蒼竜たちから聞いた。
そもそもの神とは命の感覚が違うのだと。
神々の命とは所詮やめようと思えばやめて循環へと投じられる程度にしか捉えられないのだと。
「命の輝きに、キミは惹かれた。だからドラーグを、子を創った!」
『僕を……!』
『それが、そんなものが答えだとでも!?』
「そんなものを、輝かせられるからこそ、キミとの大きな違いになったんだ、朱竜! それを、つながりを、受け取れッ!」
全ては繋がっている。
朱竜の腕がガクンとくずれる。
「発射」
コロロがそんなスキを見逃すはずがない。
「ガアァーーーー!!」
ドラーグの叫びはすべてを消し飛ばす奔流となる。
ブレスとは違いもはや広範囲爆発が継続するようなもの。
威力が桁違いだ。
「っ! クギャ――――オォォォーーー!!」
『フレアブラストォ!』
対して朱竜はわずかに遅れ。
反撃の形で放つ朱い光。
これが大地に放てば火山が出来上がるフレアブラスト……!
大昔の地形すら変化させ現代の土地を多く作っただろう天変地異の技。
私たちは……ドラーグはこれに勝たないといけない。
とある地点を通過した時点で"ベンド"を発動!
そう……真正面から捻じ曲げようとこんな出力の塊どうしようもないだろうと踏んでいた。
だけど少し通り過ぎた瞬間ならば別。
ここで上方向に逸らす!
アァ……重いッ!
味方の攻撃だった飛空船ビームよりずっと重い!
「グヌヌヌヌ……!」
「――――ァァ!!」
「アアアァァーー!!」
「パパ……!」
祈るようなドラゴンライダーの声が絶叫とも言える叫び2つにかき消されていく。
これだけやって朱竜目前まで迫っていた爆風は朱竜の朱光が食い止め押し返している。
これでも……これだけやっても!
各地のみんなが繋いでくれたのだから……私がやらないと!
思いつき……! 高速空魔法詠唱! "ベンド"!
残り3枠持っていけ! 合計8連"ベンド"!
1つのトラップならともかく合わせるならば。
高速化させて1つ1つは軽くても神力塊を消費して神性をつければ。
とにかく今の全身全霊を……みんなが繋いだ命のリレーを!
ここで途絶えさせない!
――その時私の中で何かが弾けた。
そうか……神力の指向性。
朱に染まる力があるのならば。
私自身の力を素で抽出するのではなく。
もっと力を持つ存在から。
よく見知ったアイツの力から。
私の力を結びつければ。
そう。
引っ張れ!
私で足りないのならば誰かからもらう。
この蒼の力で!
『えっ、ちょっと待っ、何をして僕から力を!? ええっ!?』
何か戦場にいない遠くから念話が来たが集中したいので無視。
わかる。
今私以上の力が蒼く引き出されている!
そのまま全部上に引き上げる力として使う。
力任せ……じゃない。
魔法と神力は力を込めればいいんじゃない。
そう使い方。
ペンは力任せにかければ欠けるか破けるか。
そうか。真ん中に芯だけ残したように。
「こう」
『バカな……!?』
これは朱竜からの念話。
それはそうだろう。
光の放たれる方角が蒼の光で上へと逸らされる。
そこには誰もいない。
そして全体の方向を変えられた後は。
ドラーグとしてもギリギリで息が途絶えそうな今だが。
「パパ! いっちゃえっ……!!」
『これが、僕達の力だあぁー!!』
ドラーグが念話でも吠える。
コロロの激励でさらに威力が増す。
朱竜の閃光を横腹を抉り削り取って。
朱竜そのものを押し切って!
光の渦に飲み込まれていく……!
『まさか使うハメになるとは』
「え?」
朱竜は光の渦が晴れた時に。
無傷になって立っていた。




