百七十一生目 意見
インカと別れた後に向かったのはドラーグの元だ。
たぬ吉と共に多くの魔物たちを集め意見交換会をしているとか。
ちょっと覗いてこよう。
最初はそう軽い気持ちだったんです。
「俺の話を聞け!」
「もうどうにかしてよさあ!」
「昼寝ているのに周りが騒がしい!」
「お前邪魔っ!」
「お前こそ!!」
「ひ、ひええええぇ」
「みなさん、落ち着いて、落ち着いて!」
意見殴り合いの会にお邪魔しちゃったかな?
ドラーグがなんとか収めようとしているがそれぞれ代表の種族たちが万能翻訳機をつけて言葉で殴り合っている。
というか実際の暴動も起こっているがな。
テントの中で万能翻訳機をあるだけそれぞれ種族代表を呼んで話を聴こうとしたみたいだが……
気配を弱くしているとは言え私にまったく気づかないほどヒートアップしてらっしゃる。
うわー、帰ろ。
「あ! ちょっと、ローズ様!? ローズ様!!お願い待って!」
くっ、ドラーグにバレたか。
結局私も巻き込まれてしまった。
なんというか……
大人しく経緯を見守っているがドラーグへ意見を出し合う感じのはずがドラーグ放置で言葉をぶつけあっていた。
言葉も飛び交うしものも飛び交う。
互いに言葉がわからない状態で我慢していた事が今万能翻訳機のおかげで全力の殴り合いになっていた。
物理的な意見交換会。
私たちに各々がついてきただけであってそれぞれの他種族同士はそんなに仲はよろしくない。
少しずつたまっていたフラストレーションが今爆発している。
しかもこれはまだまだ全種族ではない。
「うわぁ……大変だねぇ」
「大変ですからどうにかしてくださいよぉ……」
「ずっとこんな調子です……」
ドラーグとたぬ吉にせがまれたがこれはなぁ……
ルールなどを決めるにしてもさすがにこれでは何も決められまい。
ヒートアップしすぎて殺し合い寸前だし私は相変わらず認識されていないし「ウンチするな!」「食い物盗るな!」「押し入ってくるな!」と混沌を極めている。
それぞれの種族内であったルールを他の群れとは違うという認識なしに動いている結果だ。
まあ、私の責任でもある。
ドラーグに押し付けるのはかわいそうだし、やろう。
抑えていた力を解放する。
これはいわゆる魔物としての迫力。
力量を誇示するための気。
意識すれば放出をコントロール出来る。
狩りの時はこれを消して獲物に接近し普段は威圧しないように下げていてる。
今の私がコントロールせずに常にだだ漏れならば周りが引くほどに強く感じられるらしい。
……そう、今のように。
周りはさっきまでの威勢は嘘のように消え果て私を見つめている。
ついでにドラーグもビビっている。
なんでだドラーグは分かってたはずだろ。
「はいみんな落ち着いて、ドラーグの話を聞いてね」
「は、はい!」
一斉に良い返事が返ってきた。
なんでだかドラーグも返事したけれどドラーグが話すんだぞ……
不安に思いながらも作業はスタートした。
私の気配は引っ込めてドラーグや魔物たちの話を聞く。
黒蜘蛛や赤蛇は私よりも威圧の気力は強かったなと思いつつも真面目に聞く。
先ほどまでの取っ組み合いのケンカみたいな空気は無くなりドラーグが指示した順に話をしていった。
「それで、ええと食べ物に関してですが……」
「ええ、私たちの種族は骨も食事として保存しておくのですが」
そう言ったのはハイエナリーダーか。
確かにハイエナたちは骨をくだき骨髄すら食べる。
食べ残しが限りなく少ないエコ魔物。
「他の種族が勝手に持っていってしまうんです。私たちがわざわざ別でもらってきているのに、横からかっさらわれるのは困ります」
「あー、あーそういう事か。すまないそれは……」
すると今度は尾が管のようになっている猫とか狼とかを足して割った魔物が口を出した。
外界に出て戦った初めての魔物だ。
「ゴミだと思っていたんだ。だから回収してオモチャにしていた、今度からはやらないように言っておく」
「ええ、そうしてくれるとありがたいですね。でもオモチャにする程度なら多分、分けますから……」
「ふむふむ、ゴミに見えても貴重なものだったりするから取る時は許可を……」
「あ、ゴミそのものはどうにかして捨てさせる時を作ってもどうでしょうか?」
ドラーグもふたりのやり取りを見て色々と折衷案やら必要な決まりを練っているようだ。
たぬ吉は思いつきを話し補助している。
言葉が通じないからこそ起きてたトラブルは言葉が通じた事で殴り合いにもなったがこうして折り合いをつけることも出来た。
あとは、今後はどうするかだ。
こんな調子で多くの話が行われ順調に回っていることを見てから私はテントをそっと出た。
今度はそれぞれ良くするための話し合いで白熱しだしたからだ。
殴り合いには今度こそならないだろう。
たぶん。
夜が深まっていたが今度はハックの元へ。
ハックはものづくりのために窯を作るはずと思っていた通りテント集団から離れたところにいた。
地面を掘っているようだ。
「ハック! やってる?」
「あ、お姉ちゃん良いところに! 手伝って!」
……どうやらここでもすんなりとはいかないらしい。