六百六十六生目 親子
朱竜は自身の頭に大量の熱を加えて毒を剥がした。
『さて。ここにきて立ちふさがるは、やはり貴様か。蒼竜の使いよ』
「私はローズオーラです! あのバカのことはしらん! この地獄生んだの7割ぐらいあいつのせいだし!」
この場にいないやつにあらゆる責任をぶん投げる。
それがいない上司の役割だ。
……こんなこと思ってたらハチャメチャにカウンター返ってきそう。
朱竜は笑ったのかあまりに低く悍ましい唸り声をあげる。
『良いぞ。為らば其れで行こう。ローズオーラよ、息子に回す回復など勿体ないだろう。それでは全力を出し切れまい』
朱竜の言う通りドラーグの回復を私の"ヒーリング"回して回復していた。
もちろん朱竜相手に1つ枠を使うと3枠になる。
というか魔法枠1000でも朱竜相手には足りない。
だけれども……
私は賭けたい。
ドラーグとコロロの目がまだ死んでいないのだから。
「親……僕は、確かに、弱い。けれど、親と向き合うのに、そんなにたいそうな理由がなくてもいいじゃないか!」
『そんな想いだけで、戦いに来るなど矮小な!』
「それでも! 戦いの場じゃないと親はこっちを見てすらくれないから! これだけ戦えるようになったよって見せないと!」
「パパのママパパ……コロロは、パパは勝つよ」
『フン! 貴様の背に乗る虫けらのほうが、だいぶ覚悟があるように見える! ドラーグ、貴様がなぜ心が弱いか教えてやろう。貴様は、誇りがない! 自身に賭けられる誇りがなければ、戦いなど惰性にすぎん。だから周囲が理解できない、誇りとはそういうものだ!』
「ほこ……り……」
ドラーグの脳裏でこの瞬間何の思考が走ったか想像にかたくない。
ドラーグの目は大きく見開かれている。
ドラーグ自身が過去から何度も語っていたこと……ここ数年以外は全てダラダラ過ごし続けていただけだと。
朱竜はその姿しかドラーグのことをしらない。
そしてドラーグ自身もその想いが……ただ明日を楽に過ごすために生きていた日々が駆け巡ったのだろう。
だからこそ。
『ほう』
「えっ」
ドラーグは自身が引かずに1歩踏み出したことに1番驚いていた。
「ドラーグ、思い出してッ」
朱竜の攻撃は常に止まらない。
地面に炎を吐かれたのを私が回避。
ドラーグも慌てて翼を広げたが遅い。
トゲなしイバラで一気に引っぱり上げる。
「ドラーグは、いちいち誇りだって口にしたことは1度もないかもしれないけれど、ドラーグがここ数年、たくさんいきいき活動できたことは私も知っている! ドラーグ自身が、これまでやってきたことを振り返って、どれが大事で、壊されたくないか、きっともう知っている!」
朱竜がクイッと腕をやるだけで地面から大量の……
いや……私なら視える!
結局地面の下にトラップを仕掛けているようなもの。
"見通す眼"ならば!
「ッ!」
『いまのを避けるか!』
正直事前にデータを得られてなければ致命傷をうけていてもおかしくはなかったと思う。
トゲなしイバラでドラーグの位置も的確に動かし。
追撃の腕振りも範囲が狭まった分太刀筋さえわかれば完全回避も困難じゃない。
というかまあ1発ごとに生命力が蒸発するんで食らってられない。
さらに狙いは私たちだけじゃない。
兵やリバイアサンそれに兵器。
更に言うと。
『こちら司令部、いまので飛空艇が大きく被弾した!』
「えっ!?」
振り向くと大きな炎を上げながら飛空艇が必死に飛んでいる姿が。
まだ落ちはしないかもしれないけれど継続戦闘が……!
『なので、支援力が下がる。こちらは気にしなくてはいいが……』
『わかりました、兵士たちですね』
『ああ、少しでも頼む』
戦術塔と戦略塔。
それに戦場を上から俯瞰するという指示に絶好な配置。
それらを捨てなくてはならない。
兵たちは今までそれらで朱竜たちの猛攻をしのいでいたのだ。
ここからはもう詰めの戦いになるだろう。
それにドラーグも。
私のイバラから抜け出して自身の翼で飛ぶ。
怪我は多数だけれどまだ戦える。
なぜならその眼には朱い火が灯っているのだから。
「パパ……」
「大丈夫……だって。僕は……」
ドラーグは普段まるっこくて愛らしい目を細め強める。
「みんなに支えられて、たくさん楽しい日々を送って、苦しくても前を向いて、喜び会えるようになったんだ……親が知らないところで、知らない世界で……!」
ドラーグが私より前に出た。
コロロがドラーグの背中からこちらをちらりとみて。
ドラーグのほうへ向き直る。
「パパ……パパなら言える……!」
「僕がこの戦いが嫌なのは、ママも、みんなも大事なんだから。ローズ様にも、クワァコロロにも教えてもらえた!」
ドラーグが全身に力を満ちらせる。
朱竜に自分だけを映すかのように。




