六百六十四生目 撤退
アルセーラ。
その幼きころの心。
他者のデリケートエリア。
踏み入りたくはなかったが結果的にきてしまった。
のでしょうがない。
外に出るように言わないと。
「私はローズオーラ! ともかく、早く外――」
「んん……? だれだろう……お兄ちゃん……お姉ちゃん……?」
あれ。
私と全然目線合わないし反応も妙だ。
これは……私が心を通して別の存在に見えている?
それは都合がいいかもしれない。
まったくの不審魔物なら警戒さらるが向こうが都合よく解釈してくれるなら。
「さあ、行こう。みんなが外で待っている」
「ううん……いけない。アタシ、何かを、なにかしなくちゃいけなかったから。でも、アタシはうまくできなかったから……ここにいなくちゃいけないの」
「そうなんだ。でも大丈夫だよ、みんなが外で待っている。やれることは、それからにしよう」
「アタシ、まだ弱かったから、まだ足りなかったから、何もかもなくなっちゃったから……ちゃんと出来るようにならなくちゃいけないの……」
ギュッとアルセーラは自身の服を掴む。
そうか……力か……
ここでも力で奪われた存在が出てくるか。
そして彼女は奪う側に回った。
さらに今力を暴走してまでここにいる。
力を欲するがあまり。
最初はほんの些細な想いだったのに。
それが周囲と自身の二重柱でどんどん補強され。
今こうなってしまったと。
「なるほど……だったら、それこそ歩かなきゃ」
「歩く……?」
「変な力でぶくぶく太っても、なかなかそんなに良い結果は呼ばないからね。ちゃんと1歩ずつ、みんなと歩かなきゃ」
「でも、みんないつの間にかどこかに行くの……」
「それでも、きっとまた別の誰かと会える。なんなら、こちらから会いに行っても良いよ。そのために歩こう」
「いいの……?」
「いいも悪いも、まずはそこからだよ。悪いことを償うにしても、まざは1つずつ、おかしくならないように積み立てなきゃ」
「……うん」
「外には、たくさんつらいことや厳しいこともあるし、何より背負わなきゃいけないことがたくさんあるけれど……だからこそ、その重みでつぶされたり、おかしくならないためにも。なにより……時には思いっきり背負ったもの脱いじゃうためにも」
「脱いじゃうの!?」
「また背負うためにもね。たまには脱いで、背伸びして、背負うもの見直して、何かおかしくなってないかとか、ちゃんと振り返りながらね。それでも、未来に行くんだよ」
私はトゲなしイバラをアルセーラの手に渡す。
ギュッと握られる。
私は導くように外へ有るき出して。
「いって……いいの?」
「むしろ、行こうよ。それでやっと、見えるものもあるから」
外から強い光が溢れてくる。
ここは心の世界。
主が望めば歩く先が道になる。
「みんな……ごめん」
歩みと共に白が世界を包んでいく……
「……ァァアア!!」
「グゴアァォァ!!」
意識が戻る。
表の世界では1秒も立っていない。
私がイバラで首を締め上げ骨の上半身内に光るアルセーラ像を壊すようにしているところ。
正しく白昼夢帰り。
さっきまでのあれは幻想だったのかはたまた……?
しかし変化は唐突に訪れた。
私のイバラの間から勢いよく飛び出す光球。
あれは……おそらくこの動くためにいるコアのやつ!
同時に力の感触が変わる。
アルセーラ朱竜の動きが震えたかと思うと途端に押し返してくる力が消える。
こ……これ。
どうなる!?
『おい、今何かアルセーラ朱竜から落ちたのを見たが、あれなんだ!? アルセーラ朱竜の暴れが突如止まったと報告が相次いでいるぞ!』
『わからない……ただ、もしかしたら、ついにやったかも』
心を白昼夢で少しどうこうしたから表の大暴れが解決した……と考えるのは早計だろう。
確かにイバラには何かが砕ける感触と。
それに僅かだった生命力を削りきらんと全員が……特に火山口に潜り込んだメンバーが大きく殴り削っていた。
その最後のほんのひと押し。
アルセーラ像が破壊され中からとびでるその手伝いだけが出来たのだろう。
震えるようにしながら体の端から
どんどん色が失われまるで石のようになってきている。
……あ。これあんまりよくないことだな。
『中の突入組へ教えて! アルセーラ朱竜の力がロストした! どうなるかわからないから逃げたほうがいいって!』
『ああ、複数方向が上がってきている。ローズオーラも含め、距離を取るんだ』
司令部からの指示に従いイバラを離す。
時間はかかっているがじわじわ石に変化していっているようだ。
とにかく撤退!
そうこうしている間にも朱竜のほうに変化が。
ああーコアのほうも気になるのに!
まあそっちは撤退組に任せよう。
一応それも連絡しておく。
朱竜とドラーグが熾烈な争いを繰り広げていた。
2021/11/11
1754部目に未投稿だった部分を投稿しました。申し訳ありませんが、そこのチェックをお願いします




