六百六十三生目 白心
ドラーグはともかくとしてアルセーラ朱竜の方だ。
首元のアルセーラ像から放たれる光ははっきりとしていて眩しい。 引き抜けないだろうか。
なんとなくこういうのってコアさえなんとかなれば自壊するよね。
というわけで狙っちゃおう。
さっきみたいにただ空へ浮かんでいるだけでは追撃をえげつないほど食らうだけ。
私の"ヒーリング"に回すほどどんどん攻め効率が悪くなって結果的に負ける。
攻めることこそ時には最大の防御!
一気に上空から飛び降りる。
上空迎撃の準備をして構えたアルセーラ朱竜は噴火の待機をしていたため思いっきりミスをした。
私の飛び降り蹴りを喰らって噴出孔が変に噴出できず詰まったかのように内側ではぜる。
アルセーラ朱竜はその衝撃でさらに怯んだ。
良しこのまま体勢を立て直す前に。
身体をぐるりと回してイバラで勢いをつけ大上段!
大イバラが何度もガンガン骨だけの頭部にぶち当たる。
さすがにこの重さにはまいったのか下半身がたたらをふんだ。
脳はないけどコアがあるからかな。
揺らいだところに大きく1発。
イバラたちをバネにして私自身を使ったタックル!
これで吹っ飛ぶわけではないが……
大きくのけぞり骨が悲鳴を上げる。
私はくるりと着地して。
それを見る。
アルセーラ朱竜ではなくアルセーラ朱竜の真後ろ2つ。
頭大ほどに膨れ上がった黒い球。
……闇魔法"エクスプロージD"。
実はこの闇魔法はセット型だ。
最初は小さく。
やがて大きく。
気づかれて破壊されると駄目なので気を引く必要はある。
魔力の感知にほとんど引っかからないのがなかなか恐ろしいところ。
闇魔法への耐性を薄れさせるために火魔法"フレイムボール"も放つ。
赤紫の炎が着弾と共に燃え広がる。
嫌がってなのか追い払うがそんなに効果はなさそうだ。
しかしその分相手は余計なスキを晒した。
闇の球体たちが一気に濃縮され大爆発を起こす!
光が失われるような闇の氾濫。
何もかも吹き飛ばし焼き尽くす代わりに奪い凍てつかせていく。
今この状況と相性がいい。
アルセーラ朱竜がついには徹底的なスキを晒した。
上半身が大きく揺れて首元を大きく晒す。
聖魔法"セパーレーション"!
同時にイバラを伸ばして相手の首元へ。
首に巻き付けてイバラから"セパレーション"を直接流し込む!
朱竜の身体に斬り込むような光が走り。
"無敵"もありったけ流し込んで。
「アルセーラーッ!!」
「ゴォォォ……!!」
意識が……白んで行く……?
白い世界。
ここはどこかというのはなんとなくわかった。
心だ。
ここは心の世界だ。
私の心の世界とは色の様子が違う。
つまりはアルセーラのもの……
ここらのエリアには誰もいない。
しかし道が正面に続いている。
……来いということかな。
私は白い空間を駆けていく。
徐々に景色に紋様が浮かんできて。
輪郭が形作られていく。
心の中は個々人が持つ神域だ。
儚くもろく他者が踏み入っていい場所ではない。
その中に私は身を投じて行く。
やがて1つの家を見つける。
いや……家じゃないな。
これは城の一部?
城のどこかがえぐれ取られたように存在している。
きっとここは……彼女の部屋だ。 部屋の扉は既に開け放たれている。
中に入れば調度品たちと。
ベットで横になっているひとりの影。
……アルセーラだ。
ぐっすり眠っているらしく反応を示さない。
困ったな。
部屋の主が寝ているのだけれど。
心の中では私もできることは限られている。
まして他人の心の中だ。
いわゆる一般的なことしかできそうにない。
つまり。
私は前足をベットのところにかけて。
勢いをつけ乗り込む。
そのまま思いっきり揺さぶった!
「起きろおおぉー!!」
攻撃しないだけ良いと思ってほしい。
"無敵"もバンバン流し込んで心のスキマをこじあける!
"無敵"は想いを通じるスキル。
こういう時役にたたずいつ役に立つ!
アルセーラをゴロゴロして揺り起こす。
さすがに届いたのかアルセーラのまぶたが揺らぎ開いた。
「ん……」
「アルセーラ! ほら起きて、外大変なことになっているから!」
「誰ぇ……眠いのに……」
起きたアルセーラを見て……
驚いた。
先程までは確かにアルセーラだったのに見知らぬ少女になっていた。
いや……これもアルセーラなのか?
アルセーラの中にある幼い部分。
逆に言えばアルセーラの根である。
いや……表人格の方に用があったんだけれど!
だめだな。つまり表人格は過去朱竜に持っていかれて蒸発中か。
なんとかして冷やして液化して凝固しないと。
そのためには今起きてぼんやりした彼女に眠気覚めという言葉意味での覚醒してもらわないと。




