六百五十九生目 第ニ
朱竜にふっ飛ばされ地面に転がる。
い……いったい!
私の今巨体がフル補助フル鎧受けかつ直撃回避で吹き飛ぶほどなんだから威力は異常に高かった。
受け身をとっさにとれたは良いものの体全体がしびれ肺から空気が抜けてしまう。
気合を込めて肺に息を取り戻す。
追撃の炎が来たのを見てから地魔法"コクーンアース"を発動。
便利なガード魔法で私の周りに山にも似た光でできた岩壁が出来上がる。
岩壁が燃やされ溶かされて。
普段は逃げるタイプの魔法を4枠目にセットしておくんだけど今回はガード系だ。
なんとか防げはしたが本来ここに立て籠もって整えるものが1発で溶かされた!
すぐに動き出し回復へと意識を向け……
すぐ近くにアルセーラ朱竜がいてギリギリ蹴り込みを避ける。
ただの蹴り込みでよかった!
横に避けてから逆に尾をイバラ化させて毒を浸らし襲いかかる!
『さあ、行うとしよう。貴様ら虫と我、どちらが生き残るか、この未来はどうなるか、ここで決着をつける。だから……少しだけ暴走に余裕が出来た我による、力を見せよう』
「……はい?」
「嘘……?」
『おい、おいおい、何が行われてるんだ!?』
ジャグナーを筆頭に念話が大量に裏で飛び交う。
それもそのはず。
私も感嘆符をもらしてしまった。
……朱竜から感じる圧の気配が1段階さらに上がる。
さらに朱竜の言葉から察するに。
重りが少し外れたからこれから力を出すってことなの?
その想いを肯定するかのように周りから受ける砲弾やらビームやらの攻撃すら無視して朱竜は自らの腕を身体の中央に……いわゆる心臓付近に叩きつける。
それは自身の爪で傷つき灼熱の血が飛び出るのもいとわず。
朱竜の姿が変わる。
気づいた時には周囲にエネルギーの奔流が生まれ排出されていく。
『認めよう。虫ども。我は全力をもって挑んでいたが、それは舐めていたと。全身全霊、賭けの先に、戦いの約束を果たそう!』
朱竜の肉体が全体的に分離しだす。
身体のあちこち強大な鱗や角それに火山がバラバラにいくつかに分かれて浮いて。
更に再合成。
肉体が一瞬で再構築された……!?
さきほどまでの姿はいわゆる火山を背負う……非常に大自然そのもののような姿だった。
しかし姿は違う。
火山だった部位は溶岩として全身の急所に纏われ敵の攻撃を弾く盾となり。
空いた背中から生える翼は前よりずっと均一にスタイリッシュな形に。
何より組み替えたはずだが全体的に前より細いイメージを受けた。
代わりに腕は途中から更に伸びて爪という名の槍が複数生え。
足まわりは結構細くなったのに各地に伸びたトゲが雰囲気の異様さを醸し出している。
組み替えたことで前までの姿が能力を抑え込んで保っているだけの姿だと思い知らされた。
まるでこれでは戦う兵器のような風貌だ。
大きくは変わらない頭部だけが朱竜の正気を表している。
「なっ……」
『朱竜討伐隊は無事だが、何がおこった!? 近すぎてわからん!』
『全員警戒しろ! 前とまるで様子が違う!』
『朱竜様……これが本当の……?』
念話が飛び交うが私は応答できなかった。
司令部がそこらへんはなんとかしてくれるだろうけれど……
ちゃんと見れたものはあまりに呆気にとられていた。
『この姿は、本来ここで使うものではない。しかも、抑えが効かんのでな。本来の用途と違う用法は危険だから使う気はなかった……しかし、我も命だけではない。誇りと、魂を賭けて、改めて貴様らに問おう。我と貴様らの、違いを!』
この状態で"神魔行進"いけるか!?
いや……
やらなくては!
朱竜は脚のトゲや背中の翼から何か光をチカチカと発する。
するとなぜか宙に浮き出した。
うそ……もしや私の飛ぶ力に似たやつ!?
しかもなんだか上位互換っぽい。
辺りの力場感覚がおかしい。
朱竜を支えるように重力が変化していた。
簡単に言うと朱竜が浮いている。
ほんの僅か朱竜の重たい肉体がしずまない程度。
朱竜の細くなった脚でも支えられるように。
本来の用途ではないと言っていた。
おそらくは高速移動するための……
それでも朱竜はファイトスタイルを変えない。
改めて登り出した兵たちも。
砲撃も。
空からの射撃も。
全部その身に食らう。
前よりも攻撃的ということは全体的に守りは薄いということだ。
実際裏で検証班たちが再度データをとっているが少しずつ新たな弱点がわかっている。
それでもなお受けて物すら掴めなくなった腕を振るう。
その分の威力を示すために。
腕を振るえば剛爪が槍となって光が放たれる。
「うわっ!?」
それだけで先程とは違う。
さっきまでは叩きつけようだった力に真っ直ぐな指向性が加わり……
長くそして振るうことで広く。




