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六百五十六生目 後退

『ほう、炎を受けて消すか! 少しは成長を見せたようだな』


 割と自身の力が暴走しかけているはずなのに朱竜は余裕そうに受け答える。

 あれは完全に性分なのだろう。


「必勝の効果が抑えられているんだから、素直に負けてよ!」


 私は大イバラをだめになった部分は自切しつつのこり3本を伸ばす。

 朱竜は的確に拳を叩きつけ吹き飛ばし燃やし踏み込む。

 本当にもう……! 容赦がない!


『そうはいかん。我が万が一負けるようなこと、しかも虫たちに負けるなど沽券に関わる。魔王を倒したその力、納得出来る程の実力を我に見せ付けてみよ。我が元あった国とは違うと、虫たちの力を!』


 朱竜もあの時神代とも言える過去の契約によって縛られていた。

 大地を焼きつづけ全ての過去を終わらせる。

 過去は糧となり未来ができると考えながら。


 しかしその積み重ね自体が我々虫の強みだったのだ。

 朱竜には積み重ねの強さを見せ付けなくては。

 そのためにはまず朱竜の動きを止める!


 土魔法はだめだ。

 どうせ全部効かない。

 (くう)魔法"スペースバレット"と"ディメーションスラッシュ"!


 イバラで朱竜と殴り合いをしながら亜空間のエネルギーを弾丸のように球体を連続で発射する。

 1発1発がとんでもない大きさだ。

 ……フォウのほうをちらりと見たら炎で追いかけ回されているところで尾のブースターで相殺していた。

 避け方はないのに防ぎ方は色々あるなあ。


 さらに距離を詰めつつ空間を斬り裂く次元の刃を生み出す。

 まだ少し遠いが問題ない。

 むしろこの距離が判定内だ!


『届くと思うか!』


 朱竜は弾丸を受けつつも下がらず踏み込み。

 大きく拳を振りかざす。

 大丈夫あのぶっ飛ばす技は非常に応用範囲が効くけれど有効範囲はかなり近く。


 私が最接近するとしての読みだ。

 だからここで。

 前へ行くように見せかけ後ろへ跳ぶ!


「厶ッ」


 回転するように身体をぐるりと。

 味方識別に気をつけつつ……

 思いっきり振るう!


 グインと光の刃が伸びる。

 朱竜は防ごうと腕を構えるが。

 光は空間にラインを描き私中心の輪のようになる。


 1回転して。

 空間がズレる。

 すぐに元へ戻るが。


「なに!?」


 朱竜の肉体から大きく血なのか熱なのかマグマなのか。

 とにかく液体や煙が吹き出す。

 この魔法派手な見た目と違って両断するような能力はないがかわりに相手の中を攻める。


 防御能力を神力で覆っている場合じゃない限り硬さや防御を貫いて一定の値生命力に打撃を与えられる。

 初見相手に対してめちゃくちゃ有効なんだよね。

 2回目からは密着されて避けられるんだけど。


 朱竜は非常に技の応用範囲が広く1つ1つを極めるタイプらしい。

 使うものはすくないがなんら枷になっていない。

 1つの技術が他全てをカバーするまで持っていく……私にはなかった発想だ。


 スキルポイントはスキルレベル上げにも使える。

 そしてスキルレベル10以降は技の道を突っ走ることであり困難な道のり。

 全然スキルレベルは上がらなくなる。


 私は手を広げることを優先としたけれど……

 ただひたすらに極めてより幅広く多くのことを少ないスキルで行うのなら。

 朱竜のような合理的すぎる強者が生まれるのかもしれない。


 そこまでの域に達してないから私は何も言えないけれど。

 とにかく砕かれたりして戦闘不能になった大イバラは自切して再度つけ直す。

 朱竜自身は予想だにしない打撃を喰らって少し怯み膝を折りかけていた。


 ドラーグがアルセーラ朱竜の頭部へ飛びかかりリバイアサンが腹部へ勢いよく尾からブースト放ちながら突っ込む。

 あっちはあっちでいい感じだ。

 だが私たちはあくまで場を整えるための戦力でしかないということを見せつける時がきたらしい。


 私はスキを見逃さずイバラたちを宙に舞わせる。

 武技発動の前運動。

 "龍螺旋"だ!


 そのまま2本を先に向かわせる。

 朱竜のにおいがかわった。

 口から炎の圧力だけでイバラを2本とも焼き押し返す。


 うそお!?

 でもまだ残っている!


「チィッ」


 残り2本を叩きつけさらに爆発!

 当然私のサイズに合わせて大爆発だ!

 朱竜からしたら身体の一部上で少しドカンとやられた程度で済んでいるけれど。


 ただ大きなスキを晒した。

 爆発は炎でも土でもない。

 勢いなのだから。


 いけーっ!


 私たちの心が1つになった瞬間。

 声には誰も出さないが。

 目線だけはきっと集まっただろう。


 なにせ隠すこともできないような轟音。

 朱竜すらも反応しその目を見開く。

 アルセーラ朱竜はこういう時反応を返さないあたりが正気じゃない。


 そこにはドラゴン級飛空艇(カトンボ)

 正面の主砲が開き。

 コアを半ば露出するような形で開いたそこに。


 あまりにも膨大すぎて唸るように音が鳴っている砲台があった。

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