六百五十三生目 対個
朱竜に大きく殴られてしまった。
[ブースター調整。復帰後アタックスタンバイ]
朱竜の必勝神威がおちたとしても素の能力が高い。
兵たちの指揮は上がっただろうけれど逆に朱竜はこちらを殴りに来る。
『む……? 手応えが軽すぎる。本当に魔王か? 能力を再現した……模造品か?』
朱竜が言ったことはある意味事実だ。
結局はレベル1が中で操作するとりあえず直せた魔王の乗り物。
本来の機能は出せているけれど逆に言えば魔王の乗り物として戦える機能はほぼオミットされている。
その分身軽なのはいいけれど……
朱竜により大きく吹き飛ばされはしたものの急に空中でリバイアサンの動きが止まった。
本当にブースターとやらで空中制御できるらしい。
[個体名ローズオーラ。実質ローズオーラのやるべきことは終わっている。離脱してやるべきことをなしたほうがいい]
「わ、わかった!」
本当にこのためだけなんだな呼ばれたの!
まあここから最大戦力傾けなくちゃいけない。
そう考えれば妥当なタイミング。
私は席からおりていそぎで後ろに駆ける。
いかにも出口っぽい台座に乗ると私の体が光に包まれて。
[こっちは任せて]
その言葉がログに残ったままふわりと光の中に消えた……
『何者であろうと、我の神威を剥がす力、許してはおけぬ!』
気づいたら近くの岩陰におりていた。
こっわ! すぐ近くで戦ってるじゃん!
私はすぐに移動を開始しながら朱竜たちの様子を見る。
こうみるとリバイアサンはすごい。
空に跳び尾らしき部分から光をたくさん吐き出して絶妙な調整で空を飛び回っている。
かなり速い。
それで炎や拳を避けつつおりをみてアルセーラ朱竜に蹴り込んだ。
アルセーラ朱竜が吹っ飛んでリバイアサンはまた空に逃れる。
大立ち回りを今はやれているけれど朱竜が相手ではいつまでもつかは……
私は各地で連絡をとりつつ一気に高速突進していく。
補助魔法たちは……大丈夫。
あとはちゃんとスキルたちが発動してくれるかどうか!
一気にアルセーラ朱竜の方まで飛んでいく。
アルセーラ朱竜は崩していた体勢をちょうど立て直していたところだ。
改めて近くで見ると末恐ろしい。
生理的嫌悪感を催すような表皮の溶解に泡ぶくれ。
崩壊しかけているのに再生しつづけている手足。
そしてニンゲンらしき青いバストアップ部分が生えていて。
なにより顔は正気が全て失われた朱竜。
朱竜自体がこわいのに……
そのまま自身の補助を切らさないようにしつつ突撃。
アルセーラ朱竜はこちらに気づくような余裕はないようだ。
私はギュンと空から加速してアルセーラ朱竜付近まで来た。
すでにそこでは大量の魔物兵たちが己の肉体を燃やしながら突っ込んでいた。
というより元々燃えているけれど。
私は自身に火魔法"クールダウン"を継続化させてかけつつ近づく。
後ろの方に遅れ気味でいるメンツの中に普段のメンバーであるアヅキやら雷神やらがみえる。
そして燃えている方に。
「おや、遅かったじゃない」
「アカネ……! こんな前に出て大丈夫なの?」
「むしろ余裕に適応できたよ。うちのダカシは極寒の地に適応したことあるんでしょう? ならこのぐらいはできる」
ダカシはアカネの兄で同じように悪魔実験の犠牲者だ。
今のアカネは顔が猫のようになっているが頭上の耳から炎が揺れている。
他の身体部位も耐熱仕様らしい。
まったくアルセーラ朱竜の熱をものともしない。
私魔法をかけてても熱をおとせるまでラグがあるから暑いのに凄いな……
「攻略深度はどう?」
「さっきの吠えて弱体化みたいなの、あそこからいきなり攻撃が多く通りだした。あと上から蹴られると吹っ飛んださいに合わせるのが大変」
「それは……なるほど」
念話してできうる限りふっ飛ばさないように伝えつつ……
私はみんなが集っている弱点は無視する。
今回はそれが目的じゃない。
さらに飛んで登って行き誰もいない人型の者が生えている首元に向かう。
正直ずっと気になってはいたよね。
もし動かれると凄まじい距離離されてしまうのでちゃんと近くの地に降り立つ。
いわゆる鱗の一部。
「アルセーラ! これを止めるんだ!」
とりあえず叫んで気を引いてみる。
すると意外にも反応があった。
目にあたる部分がぬるりと動く。
「朱竜様、神大王国、お国のため、リーダー、影、朝、ローズオーラ、勇者、長年、朱竜様、アアアァ!!」
「うわっ、ウワッ!?」
だめだ会話が通じるような感じじゃない!
単語を羅列しながら目から炎ビームを出してきた。
さらに足をついているところから土槍が連続で出てきて慌てて転がり避ける。
なんとか目を覚ましてやらないと。
まずは攻めて目を覚ますかどうか試してみよう!




