六百五十一生目 海龍
魔王の帽子の上に乗っている蛇列車。
その目がギョロギョロと忙しなく動く。
「来た……合図だ」
兵のひとりがそう告げる。
念話を受けたのだろう。
念話発信できる側は希少だから指示を飛ばす部の椅子にずっとかじりつかされるらしい。
つまりこちらから改めて送り返すことは出来ないのだろう。
私も連絡先そんなに知らないし。
ということで。
フォウが表に出てきてそっと手を蛇列車に添える。
蛇列車が答えるように大口を開けて舌をニョロニョロ動かした。
その身体からは想像もつかないような機械がガタンと動く音がして。
宙に浮いた。
ゴトンと走り出す蛇列車は天へと登って行く。
それはまるで宇宙まで導くような。
[コード実行。乗車]
鯉が登ると龍になると言う。
では蛇列車が登ると何になるのか。
それは今から明かされる……
空に昇りうねるようにポーズを取ったかと思うと。
カッと光がまたたく。
「まぶしっ」
[実際はこの間に異次元に飛ばされる。乗り物は成長過程を得て数時間ののちこの次元へタイムラグほぼなしで戻ってくる]
凄まじい技術を聞いた気がする。
前の時もそうだったのかな。
だから一瞬で巨大化したと。
そして今もその肉体が成り立つ。
姿はやはり前の魔王の乗り物と同じく朱竜クラスの巨体。
そしてその様子は前と大きくかわっていた。
まず全体像として白や金で仕立てていた前回と違い青ベースの白アクセント。
前回は様々な皮膚模様がまじり合って究極の生物らしさが出ていたが……
今回はさわると滑りそうな半機械的ボディ。
でも近くで見るとどことなく生物的。
面白いのはその外側らしき部分が多重に重なりなんらかの服みたいに見える。
質感も少し違うからなんだか色合いも重なって私の毛皮でもなめして着込んでいるかのような……
全身装備の姿だが前と違い頭がひとつ。
獣のような形ながら顔つきはニンゲンかマシンのような。
そして腕だ。
腕から目……光が灯るレンズのようなものが無機質に並び模様のようになっている。
そして手先にあたるものに頭があった。
片方は竜のように。
もう片方は前の魔王乗り物頭みたいに。
恐ろしくも美しく味方だと思うと心強い。
そんな存在がここにいた。
「「おおおぉ……!?」」
「だ、だいぶ変わってる……」
[さあ中へ]
誘導されるがままフォウの後に続く。
フォウがまず魔王の乗り物近くに歩むと光が放たれグングンと吸い込まれるように空へ飛んでいった。
なんか……未確認飛行物体に連れ去られる牛みたいな……
そして上ばかり見ていて気づかなかったけれど本当に……ふと気づいた時に。
ひとりのガタイの良いニンゲンが帽子を深く被り立っていた。
カシャンカシャンという独特な金属音と共に。
「切符ー……切符ー……切符を拝見ー……」
男の低い声が響く。
ただなんというか……
敵対心は感じなかった。
兵士たちと困惑はしながら警戒レベルを引き下げる。
そして近づいていくと。
「切符を、拝借」
あれは……知っている。
モギリの切符ハサミとかいうやつ!
しかし困ったことに切符なんてものはない。
「誰か、切符を持っている人、います?」
「切符……?」
「割符のことか? ない……」
「別の割符ならあるが……」
もちろん私もない。
ない……ん?
[平原 → 朱竜 /月//日(乗車時の時間発)(目的達成時着) F06 じゆう1号 1号車]
フォウからのメッセージ……ではない。
ログにあった謎の記録。
ええっと……もしかして。
モギリに近づく。
深い帽子の奥はまるで見通せずにおいは生き物のそれ特有の臭さを感じない。
なんだろう……この無条件に影が薄くされているような。
まるでどこにでもいるような。
「ご乗車、ありがとうございます」
切符ハサミがどこでもないを切った。
しかしそこには淡く消える切り口にあった光。
それにこれは……
ログを見るとさっきのメッセージに大きく穴がえぐられている。
……切り取られたらしい。
「み、みんな! ログ、ログの方を見て!」
言われてあたふたと気づきだし兵士たちは一斉に来る。
手慣れた様子でハサミをカチャカチャやって全員分を切り裂いた。
……私たちを空から降り注ぐ光がとらえる。
「お、おお……!?」
「「おお……?」」
全員感嘆符しかあげられない。
宙に浮いて運ばれていく。
これ……どういった理屈なんだ。
まったく揺れや不安定感を味あわずかなり高速で空に向かう。
あっという間に光の元まで行き強く視界を白く染めて……
[ようこそ。リバイアサン内部へ]
ニッコリとした表情のフォウが先に見えた。
あたりの景色も見えるようになっていく。
そこは前までとどことなく雰囲気が似た場所。
快適な環境で生物の中だとは思えない。
そして床が思いっきり肉ではなく床に張り替えられている。




