六百四十九生目 必勝
飛空艇は飛んでいく。
巨大過ぎる姿は見るものを圧巻する。
しかし朱竜にとっては多少大きいだけで他と変わらない。
燃やせば消える。
それだけの存在に見えた。
実のところ朱竜の必勝神威は朱竜
の実力とはそこまで関連性はないと見ている。
朱竜の実力そのものはえげつないほどに高く……
その上でダメ押しのように必勝があるため普通は勝てない。
殴りかかろうがなにしようが大した威力出ないならば受け止めてしまうし……
朱竜の能力を上回る受けか防ぎをしなくては溶かされる。
そしてその上でだ。
もし朱竜や朱竜の眷属に負けをもたらしそうなもの……例えば何をやっても壊れない盾なんかがあれば。
その壊れないという要素ごとぶち抜いていく。
自身を射抜くビームでさえも致命傷を避けてしまうだろう。
そんな最強の神威と自身の能力両方あるのだが。
弱点も明確に有る。
まず内ゲバや自傷ダメージに対してどうしようもない。
今も力の放出を見誤って自爆を避けられないでいる。
元々どうするつもりだったんだ。
まあそれこそ城を覆う時空嵐なら全部受け止めてなんとか破壊できる目算だったのか。
そして味方内からの攻撃に対しては向こうの必勝とかち合い割と笑えない被害が生まれる。
それ以外にも必勝をかかげる以上制約で負けと認めてしまうような……例えばこの場は引くという行為すらもできない。
朱竜のアレは性格もあるがこの制約によるものだとも推測されている。
火中の栗を拾わないとか負け戦に参加しないとかはできないのだ。
それがどのような理不尽な戦いであれその場において絶対の勝者になるまで戦いをやめられない。
なんとも孤独な神威だ……
ともかく私たちはそれに勝たなくてはならない。
正確には全ムダなエネルギーの浪費。
ただ朱竜の見込みでは1度殺されるぐらいでトントンのようだけれど……
つまり勝たなくてはならない。
裏技荒業鬼札全部切って。
必勝を超えるものを叩きつけねば!
朱竜の前にやってきた飛空艇だが神の圧を感じてしまうとあまりに頼りない泥舟にも思える。
それでも……
「砲撃、構え!」
「砲撃構えー!」
戦いの時はやってくる。
超大型飛空艇だけではない。
地上からも普通は使わないような巨砲たちがやってきている。
空も地上も朱竜を斃すために集まってきた。
ただその信仰に報いるため。
そして住むべき場所も守るため。
なにより。
この長い炎の連鎖が終わるかもしれない。
その時のために。
「発射」
……それは一瞬の閃光。
各地に届けられた声と共に本来は怨敵を討ち滅ぼす為に用意された兵装の数々。
それらが一気に放たれていく。
魔法兵器が。
砲弾が。
そして飛空艇のエネルギーを使った副砲軍レーザービームが。
各地から魔法が。
空から氷塊が。
あまりにも小さいのに存在感の有る武器たちが。
朱竜を穿とうと一斉に迫った。
『……良かろう。我も戦いの時を始めよう!』
朱竜の目に力がこもる。
朱竜の口が軽く開き。
信じられないほどに空気がネジ曲がり吸い込まれていく。
そしてただゆっくりそして力強く。
全身の発熱と背負う火山のような身体はもはや目に眩しいほどに輝く。
朱竜は口を閉じる。
『来る! ブレス!』
私の合図と共に最大級の障壁たちが貼られていく。
しかも工夫がしてある。
全員の読みどおりならば問題ないはず。
『我が負けるわけにはいかないのでな……!』
それは時空嵐の再発やそもそもまけないからこその必勝を掲げているのことで。
予定通りの反撃が放たれた。
口が開かれると灼熱を固めたような朱き炎。
周囲にばらまくよう炎を吐く。
それはまるで生きているかのように広がり。
多くの攻撃をしのいでいく。
……攻撃たちが溶かされているのだ。
炎は溶かすだけにとどまらない。
相手を灰燼に帰するまで止まらない。
直線上に放たれたわけでもない炎たちは空中にまさしく浮く。
それなのに加速するようにあらゆる障壁へと向かっていく。
紅蓮を超えた朱が燃やし払い……
……晴れた。
「本当に突破できた……」
「我々朱の大地の民と……」
「僕の効果……!?」
観測していた私たちは飛空艇の上にいる。
ドラーグは1%の小さな姿だが。
第一段階ながら効能はチェックできた。
私の土の加護と同じだ。
朱の大地で信仰する民と子であるドラーグ。
いけるかな? と思ったが髪の毛やら血やら鱗やらをかきあつめるだけかき集め兵装に組み込み……
障壁展開する魔法使いたちに無理をいって信仰する祈りの祝詞を告げつつ放ってもらって。
全てのところに信仰者を組み込んでもらった。
『……ほう』
朱竜が感心の言葉を漏らしたのは。
炎が当たりきらなかった範囲の攻撃が朱竜の一応弱点に当たったことではない。
それが有効打になったということだ。




