六百四十六生目 放熱
アルセーラは朱竜らしき化け物になった。
実際の朱竜より少し大きいかもしれない。
ただここまで肉が剥がれ落ちれば質量的にはわからないが。
朱竜はというと。
少し考えたような素振りを見せてから周囲に目を配り。
『成程、大方は把握した……だが、我が識りたかった虫ケラどもの力とは、また違うな……それと、アルセーラ……』
アルセーラ側の朱竜が殴りかかった!?
読んでいたのか朱竜は当然のように受け流す。
肉体が大きく距離的に避けにくい攻撃が多いなかで身についた技術なんだろう。
剛爪のついた手を腕を回転させるようにして弾く。
『……契約者よ。昔の我を、しかも正気を落として来た物など、想像せし役にはたたんぞ。それに我同士がぶつかりあえば、また時空嵐が強く生み出され、それこそ今度は神話時代か、より前の時代になるか……星の生まれし時まで、星全体を戻す意味はあるまい』
朱竜が1歩踏み込んだあとに。
手すら触れず拳の先端に力を集め。
大きく拡げ放つ!
アルセーラ朱竜のほうが喰らいあまりに大きな吹き飛びをした。
というか朱竜そこまで把握したのか!?
相変わらず大神ともなると頭の回転と情報整理能力が異様だ。
さらに現在の先まで提示しだした。
そんな大嵐で星まるごとリセットとか洒落にならない。
まさしく世界崩壊だ。
ただ……
戦いが派手過ぎて近寄れない!
余波でみんな死ぬような動きしかない。
大きく吹き飛んだアルセーラ朱竜は派手な音を立て地面に落ちる。
朱竜からはかなり離れた先だ。
朱竜は鼻をならしアルセーラ朱竜から目を離す。
『見せてみろ、虫ケラたちよ。魔王を撃ち倒したその力を。我と何が違うのかをな。でなければ、我とアレがぶつかり合い、世は滅ぶ。あの巨大な船は、我とぶつかるための戦力なのだろう? 全ての札を切り、我とアレを鎮めてみせよ。我を納得させることが、凡百の祈りよりも深いと識れ!』
凄まじい威圧的な念話。
えぇ……
この状況に陥ってもなお朱竜は戦闘意欲をなくしていないらしい。
朱竜は戦闘を通じて何か知りたがっているらしいが……
それ後じゃあだめかな!?
今朱竜が2柱いるんですが。
まあそういう危機的状況をなんとかしろってことなんだろうけれど。
今裏で念話がめちゃくちゃ錯綜しているよ?
どう作戦立てるかって。
少なくとも計画通りに兵たちは撤退。
こっからは単なる兵員は役立たない。
そのかわり戦術・戦略級兵器と魔法隊が出る。
アルセーラ朱竜は吹っ飛んだ場にいるピヤア団兵器たちを蹴散らしている。
もはや敵味方は関係がない。
今のうちに遠くから動くドラゴンクラスを動かす。
とにかく2柱も相手しなくてはならない。
そして2柱は敵対関係にもなりうるが……
殴り合わせては神の力が反発しあってよりひどい地獄が生まれてしまう。
なので同時に相手をする必要はある。
いやだなぁ……
大神は大神の価値観で生きているのをまざまざ見せつけられる。
積極的に世界を滅ぼす気はないが……
だからといって世界の危機に対して自分の都合を優先しないわけでもない。
『……む? ……フム』
私たちが必死に撤退しちゃんとした準備を整えようとしていている間に。
朱竜が何か聞き取ったかのように唸る。
そして。
『そうか。虫ケラは戦う理由とやらが必要なのか。我に立ち向かえる栄光以外に……そうだな。一応今戦う理由は、ある』
「え……?」
『我はこの城を破壊するため、念入りに力を練ってきた。故に、我の力は限界を超えて蓄えられており、先程地形を変えてマグマを浴びた影響で、扱えれぬ限度を超えている。我を1度は殺す気でこねば、火の海と化すぞ……まあ、我は必勝故、勝てるはずもなかろうが。それこそ、魔王を倒しせしめた力を示さなければ』
「「ええっ!?」」
私やリーダーと共に叫んでしまった。
つまり力を霧散させなければこっちが全部燃えてなくなると。
それほどの威力を携えて来てみたのにコレだから本柱すら困っていると。
それを示すかのように朱竜は深く地面に足をつけて構えたまま止まる。
ただし煮え立つような力はひたすらにその場にあり。
強く赤熱を放ちだしていた。
……放熱だ。
ああしないと自壊して全てが燃え尽くされるほどというわけで。
そしてこんな恥をわざわざ言うように仕向けたのは間違いない。
事態を面白くしたいがための蒼竜入れ知恵だ。
正直助かりはしたけど!
なんか納得がいかない!
『虫ケラ、特に蒼の遣い……キサマが何かしでかしてくれるのだろう?』
「うげッ」
向けられる視線。
やってみろよという上位者からの視線。
やっぱりかー!!
蒼竜が余計な入れ知恵している。
そして同時にこれはお願いでもありそうだ。
蒼竜は上位者としてだが命たちを愛するもの。
朱竜をぶっとばしても守って欲しいと。
私もその勘定に入れてくれない!?




