六百四十五生目 過去
アルセーラは明らかに暴走した。
なにを理解して何を悟ってしまったのかわからないが。
長年の積み重ねがトドメの決定的な暴走。
ゼクシオの言葉はむしろ警告に近かった。
私やアルセーラに起こっていることを気づかせるような。
正気ならばすぐ撤退するような。
リーダーたちはそこまで長年の苦しみを味わっていない。
国を背負う覚悟もしていない。
そしてそこまで意思貫徹するタイプでもないだろう。
開きかけた口を閉じてまた開けてを繰り返し。
まさしく言葉がないといった様子だった。
「……つくよ、降ろすからその先はしらないからね」
「……あ、ああ」
やがて気持ち的にはすごく長かった空の旅も終わりを告げる。
遥か遠くの塊を見上げつつ着陸。
みんなも少し遠くで無事を喜び合っているようだ。
念話で司令部には事情を説明した。
朱竜とのぶつかり合いはあとだ。
朱竜がやたらこっちを気にするようなそぶりを見せているのは気になるんだけど……
それよりもやはり目の前の巨塊に注目が向くらしい。
ンジャ・ログ城は跡形も残さず宙に浮く1つの塊となった。
あそこ時空系もおかしくなっていたからか異様な力が未だにめぐり何よりもでかい。
元の城の瓦礫全て集めたよりもあるかもしれない。
空間が拡張されていたりおかしくなっていた分ブーストかかっているのかも。
なにより中心はアルセーラでありあの炎で囲まれた神域だ。
何かが起こる。
全員がそれだけ理解して固唾をのんで見上げていた。
『……最後まで抵抗され、焼けなかった物が、焼いても幾らでも戻された城が、貴様が破壊してくれるとはな、契約者よ。破壊をするからこそ、地は海を割り、山を造り、破壊を糧により多くを産み出す。しかし……これはどういった了見か』
朱竜からしたら……やっぱり。
過去におもい入れはなかったのだ。
念話で全域に伝わってくる。
だからあの力でアルセーラがやっと過去の忌々しくも壊せずずっといすわっていたものを壊せた……という認識だった。
朱竜からすればここから未来に向けて国をニンゲンたちとアルセーラが興していくというのが考えとしてあったのだろう。
『蒼竜のくせ者や、何やら懐かしくも忌々しい力を感じ、ここで何か悪辣なことでもやっているかと来たが……より何が起こっている? 我の余す力、ぶつけ潰すに値する事か?』
やっぱり朱竜がまえよりも全体的に赤熱してて危なそうなのまさしく噴火寸前ということだったのか。
そこまで力をためて私を追い出したかったのか……
というよりはこの城を壊して再興の契約を果たしたかったのかな。
懐かしい力というのは聖女の……現代で言うところの死滅の力か。
それで色々とんでもないことしましたよとはなかなか言えない。
それにやっぱり私にらまれている。
塊は声に応えるわけではないだろうが……
その姿を変貌させていく。
凄まじいエネルギーが熱量を持ち瓦礫をおかしていく。
熱で砕けたりドロドロになったり。
再構築されていくのはどのような姿か。
あっというまに巨躯の片鱗が見えていく。
地に足がつくように伸びてゆき……
足が形成されると同時に重みで崩壊。
そのまま地面に突き刺さる。
体が出来上がって行くと同時に崩れその上にボコボコと泡をたてて肉体が再形成されまた溶けていく。
腕は竜の爪として形成されるはずが腕の半ばに有る肉がドロドロと溶け落ち不完全で。
頭は過去の朱竜が呼び起こされようとしていたのだろうか。
それなのにあまりな不完全で不気味で。
見るものに怖気を及ぼす顔で。
何より首元らしき位置に胸から上の……つまり腕がうまり肩からだけが出たニンゲンらしき姿も見える。
あんな末恐ろしい溶け落ちかけた肉体をアルセーラはしていなかったのだけれど。
皮膚も青白く何かに覆われて。
全身のシルエットは朱竜なのにその実態はあまりに違う。
大きく口が開かれて。
「グ、ガ、ガ、ガアアアアアーーッ!!」
「うわっ!?」
凄まじいおたけび。
大気を揺らす。
しかし……
なんなんだろう。
このニンゲンが化け物を演じているような叫び声は。
もはや悲痛でもある。
こんなにもなってまで叶えなくてはいけないものだったのだろうか。
いやきっと違うだろう。
叶えるしかなくなくなっていた。
それが例え交わした神との考えに齟齬があったとしても。
彼女もずっと朱竜と交信していなかったはずもないだろう。
ドラーグのことも知っていたかもしれない。
それでも何よりも。
アルセーラが求めたのは過去だった。
きっと朱竜から未来を作るために動けと聴くのが恐ろしかったのだ。
未来を生み出そうと子を産み出す朱竜が。
新たな宿敵を見つけ歯向かう朱竜の心変わりが。
なぜならば。
アルセーラが求めていたのはあの頃の……過去のことそのものだったのだから。




