六百四十四生目 脱出
瘴気が周囲を包む。
ゼクシオは周囲だけが空気が清浄。
何かのスキルがあるらしい。
アルセーラも苦しげにはしているがそのぐらいか。
私の全力ではこのぐらいか……
神力を使いさらに私のスタミナすら使いこんでしぼりきったところでやっと少しだけ展開できた。
この場が神域なのも含めて効率が悪すぎる。
行動力をそんなに使うわけではないけれど……
使った後バテるのはよろしくない。
"深淵の一端"で出来るスキル。
まさしくこの場に展開されている状況こそがこのスキル自体の効果。
深淵という神域を開く。
まだスキル強化が弱いので取り回しはよくないしオリジナルほどの能力はない。
けれど今この場では最悪の邪魔ができた。
私の"神域"だと相手を強化しかねなかったから良かった。
「馬鹿な……! た、足りない……!?」
アルセーラが片膝をつき歯を食いしばる。
なにかひとつ……それこそ向こうに余力でもあれば違ってた。
やはり私たちのやり取りは後々のここに響いてきたんだ!
しかしこの力の奔流一体どうするのか。
朱竜は近づいてきているままだし。
アレの発動はまだかな……?
「さあ、アルセーラ! もう時を戻すのも難しいはず! 中断するんだ!」
「……できない」
「……ん?」
「制御……できない」
え?
ちょっとそれだと話が変わるんですが。
制御できないって……ええっ。
つまり今この神力エネルギーがひたすら渦巻いているような恐ろしい環境。
アルセーラが操れていないってこと!?
「ほう、これは……」
「ゼクシオ、何かわかったことが……?」
「どうやら、既に力は発動し、本来求められている動きをしようとしている。何をしようともな。というわけでだ。我は去るようだ。勝手に動くからだ。少し遠くから見ているぞ」
「ちょっ、ちょっと……まさか!」
ゼクシオのまたがるカルクック風使い魔が駆けてこの場から飛び降り外に向かう。
ええっと……
ちらりとアルセーラは全く余裕がなくなっている。
「ふふ、そ、そうか……! 朱竜様……! すべて、全てをお使い、くだ、さいっ!!」
「ま、まずいッ!」
何をしようとしたかわかった。
アルセーラの方に飛びつくのは難しい。
というかアルセーラがのけぞるとおぞましい笑い声と共に金貨たちがひっついてきている。
流れに巻き込まれないように急いで逃げる。
『全員砦から逃げて! 崩壊する!』
『『え!?』』
念話で来ているみんなに伝えたらあちこちからあれこれ質問や驚きの声が飛び交うが全部に答えている余裕はない。
逃げるだけなら力の奔流は吹き飛ばそうとしてきていたからコレに乗るだけ。
一気に加速し見えている外界に飛び込む。
周囲の残骸や金貨それに炎の壁や瘴気それに……
少しずつ遠くなる光景を引き目で見るとンジャ・ログ城全体が崩壊しだしているのが見えた。
ただし瓦礫たちは下ではなく上へ。
「うァー……!」
「ヴォー…………!」
「この声は……! それっ」
当たり前だが敵の兵士やリーダーそれにウォールたちもいる。
リーダーやウォールは近かったし巻き上げに抵抗していたのでとげなしイバラを伸ばした。
もうコレ色々問題外だよ!
「ぬぉぉぉまだ死なぬー!!」
「ウォ……?」
「ウォールさんも早く掴んで!」
「……ウォ……!」
「よし! いくよ!」
「「う、ウオオオー!?」」
重い……!
けれど幸い降りようとしていて空間の流れは巻き上げようとされている。
抵抗力の問題で飛行はできた。
近くを見ると一足先に抜け出していたらしい味方たちも。
雷神はアカネの背に乗ってとんでいる。
アカネは当然のように身体のアチコチを翼にして飛んでいるようだ。
そしてノーツの中にローズクオーツが入り空中に浮かぶ足場を渡り歩きすごい速度でおりている。
ローズクオーツが中にいる時ノーツの動きは制御補助だけで操作はローズクオーツだとは聞いていた。
いつのまにか凄まじい操縦技術を……
そのまま私たちは全力で城から逃げていく。
城としても忘れられ砦と呼ばれ。
そして今砦とすらなくされようとしている。
崩壊はするのに地面に落ちず力の奔流と共にどんどんと1つの塊へと化けていく。
その様子があまりに恐ろしくて。
生涯忘れられそうになかった。
「な……なんなのだあれは……計画は……? アルセーラさんは……?」
「あれが、あの中心にいるのがアルセーラ……もはや目的を叶えるために、何もかもを投げ捨てだしたんだ。彼女は……自身が過去の朱竜になろうとしている。朱竜自体が国だと、そう思っているんだ!」
「ウォ?」
「な……」
私はイバラへ必死に掴まっているふたりに話しかける。
あとは飛来物を避けて降りるだけだから少し余裕ができた。
あとあのふたりに余計な暴れをされると困るので言葉を交わすのは大事。




