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六百四十三生目 呪黙

 突然ゼクシオ……戦場の神が現れた。

 もはやなんでもありか。

 いちばん忙しいタイミングで現れた。


 朱竜は悠然と歩きながら戦場の一切合切を気にする気もなく歩み砦の方に向かっている。

 完全に草むらの虫扱いだ。

 見えているかも怪しい。


「一応宣言をしておくと、我は別に貴殿らの戦いを邪魔する意思はない。だが……どうやら戦いどころではないのも事実」


 ゼクシオが話す通り朱竜が来ている今全ての優先目標は朱竜になる。

 場の騒乱の殆どはこの災厄からどう逃れるか……という点にかかる。

 ゼクシオの鎧兜からニンゲンならば目がある位置から光がまたたく。


「この長きに渡る戦い、ついの終わりを見逃すわけにはいかぬ。今か、過去か、詳しきことはわからぬが、どちらにせよ、その先を見せてくれるものこそが戦い。さあ見せてくれ、命の煌きを」


「パ・テンケ……あなたはどこまで……いや、深くは聞かないさね。語るのは、戦いで」


「くつ、させないッ!」


 私は私自身をアルセーラに最接近。

 アルセーラは渦に守られつつも上半身の服をはだけさせる。

 神力を込めて空の服を纏い時の針のアクセサリーをぶら下げ渦に(エフェクト)で突進。


 (エフェクト)同士が激しくぶつかり合い私の神力が渦を中和せんとおかしていく。

 金貨たちが弾けとぶたびに新たな金貨が巻き上げられていく。

 キリがないぞ!


 アルセーラは背中に焼き付いた翼状のあざをこちらに向けて。

 背中に力を込めた。


「我が神……!」


 赤熱していくあざはやがて限界を超え。

 皮膚を溶かし中から血よりも朱い液体が吹き上がる。

 それは翼を象るように広がる。


 マグマが翼に……!?

 凄まじい神力を感じる。

 まずい気がする。


 一気に神力が解き放たれ大きくひろがる淡い光線のように壁へと放射。

 そのまま壁が穴開くかのように光景だけ歪んでいく。

 その先に見える光景は……


「うわっ朱竜!?」


 ……朱竜の姿が遠くに見えた。


 外と世界が繋がった……!

 ここはあくまで外界との繋がりが薄くて本来は砦内に入り込まなくちゃいけないのに。

 無理矢理空間をこじ開けたのか!?


 周囲の時空嵐がなくなったからこそできているのだろう。

 遥か遠くから歩いてくる朱竜はおぞましいほどに赤熱しもはや身体は1つの太陽のごとく。

 前見たときよりもずっとエネルギーが高まっていた。


 もう今はこんな状態なのか!?

 なんというか正気なのかすらわからない。

 しかもその朱竜に接続しようとしているし。


「さあ今こそアタシに力を! 契約を果たす時!」


 朱竜が叫ぶ。

 また言語意味のないような方向。

 さすがに今度は地震はないがその心ははたして……


 アルセーラのほうへ一気に力が流れ込んでくる。

 止められない……!

 けれど彼女の思惑を崩せれば!


「はぁ、アーハッハッハッ! この力! この力さえあれば! まずは朱竜様を2柱に、そしてそれらの力で全土を全盛期の時代に!! やあぁぁーー!!」


 辺りの黄金たちがすべて浮き出す。

 すぐにおおきく渦を巻き始め……

 凄まじい力の奔流がうまれ全てが崩壊する一歩へ。


 朱竜は新たに1柱が喚び出され。

 全ては朱に包まれる……!










 ことはなかった。


「は!?」


「ま、間に合った……!?」


 確かに場は凄まじい力の本流が巻き起こり私も吹き飛ばされないように耐えるので限界だ。

 しかしそれ以上は踏み込まれない。

 現象が……発現しない。


 アルセーラは油の切れた人形のように無理矢理首をこちらに向け。

 それから怒りの形相を向けてきた。


「……何をしたぁ!!」


「亜空間に、金貨をしまった……それと」


 私は一時的なスタミナエネルギー切れで酸欠みたいなことを起こしつつ奔流から耐えつつ顔をアルセーラに向けた。

 ……大変だった。

 手持ちの魔法ですぐ思いついた逆転の策は金貨を私の亜空間に閉じ込めること。


 中のものを整理し私が目を引きつつバレないように隠れて魔法を発動し金貨やら何やらが自分から落ちるように床に穴を作って。

 魔法枠フルに使って穴を移動させつつバレないように吸い込んでいたのだから。


 彼女は無理矢理成立させたと言っていた。

 本来はもっと大きく砦内を使って成立させる難しい儀式だったのだ。

 物量で押してくるぐらいしか手がなかったのなら……その物量を削ってやればいい。


 だけれどもそれだけならば何かしら保険で無理矢理行える可能性がある。


「ここの空間を、神域を……汚染した」


 ……周囲の空気が一気に悪くなっている。

 まるで瘴気にでも覆われ出したかのような。

 周囲の炎たちすらくすぶってみえる。


 ここは深淵の一丁目。

 わずかながらただよう瘴気は少しずつあらゆる能力を下げてなおかつ息苦しさを覚える。

 本物はコレではすまないが……

 私は"自己無敵"で効果が反転して良い環境となっている。


 つまり……呪い。

 魂に響く弱体化だ。

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