六百四十生目 結界
私達は回復しつつ先に行ったアルセーラ組を追いかける。
「……ん……」
「そりゃそれだけ派手にやったら痛むよ」
雷神に空いた穴を魔法で緊急的に塞ぐ。
傷を負っていないものは誰ひとりとしていなかった。
アカネですらそうだ。
見た目は大した変化がなくてもボロのマントがボロッボロになっていたり。
中の服を新調しているあたり変身のしすぎで壊れたのかな。
生命力と行動力も削れているので結構たいへんそうだ。
ゴーレム組はその身を傷だらけにしてなんとか生き残っていた。
とはいえ耐久値は派手な外見より減っていない。
後で直すの大変そうだなぁ。
次への扉を抜けると既にアルセーラ組たちは階段を駆け上がっていた。
「待てー!」
「「げっ!」」
「ウォ……」
とにかく朱竜が来る前にどうにか……
うん?
司令部から念話。
『まずい! 朱竜がついに到達した! 大渦前で何かしている!』
「うっ……」
「ローズオーラ?」
「……時間が来た」
私達は顔をしかめた。
アルセーラたちも何か念話を受け取ったらしく顔に笑顔を浮かべる。
ただし汗の浮いた顔で。
向こうも余裕はないのだ。
こっちのせいで準備も何もだしなにより私達に邪魔されたらできたもんじゃあない。
ほうらやっぱりこの局面に影響してきた。
互いに決めきれていない状況で次の局面が運ばれて困惑するかたち。
「ふたりとも、ここで止められるかい」
「命令とあらば」
「ウォオオル」
「じゃあ、命令。朱竜様が来るまで……生きな!」
「は!」「ウォオオ!!」
アルセーラが手早く階段奥の間に消えていきふたりはその前に立ちふさがる。
ウォールはリーダーの指示通りにスキルを使ったらしく次々と場を覆うように岩盤が生成され結界も貼られていく。
結界はワープできないからまずい!
急いで突っ込んだが既に結界は貼り終えてしまった。
「クッ……」
「ハッハッハッ! 我らはアルセーラさんにも、耐えるだけならトップクラスと言われているだけあるんだよ! 直接戦闘で負けたところで、なんの障害にもならないのですよ!」
「私達に負けたくせに! もっと戦おう!」
「アカネ……? と、ともかく結界を解くから、みんなは物理障壁を壊して!」
「「わかった!」」
私は速攻に壁へ張り付く。
向こうも座り込んで壁の内側から維持する気マンマンだ。
よーし結界破りするぞ……!
表の私がやることは地味だ。
結界に手をつけ静かに目を閉じるのみ。
しかし結界のなかで仮想的に行われていることはおそろしい。
まず立体的迷宮がある。
そのなかに大量のミニ私がいる。
送り込まれたミニ私たちはこの複雑怪奇な迷宮を探索する……が。
ミニ私達は弱い。
適当に駆けて適当に罠に倒される。
しかしそれでいいのだ。
アッサリやられたミニ私は場所を共有する。
私たちは数百数千数万……なんて生易しい数で攻略していない。
ミニ私たちが大量の失敗を重ねる。
失敗の情報を重ねてさらに罠を突破出来るミニ私たちや新しい道を見つけるミニ私たちが出来上がる。
失敗したのではなくうまく行かなかったことを発見したので成功とは誰が言ったことか。
そしてここでただ物量のごと水を流し込むように攻略するのではない。
私という大元の学習。
そして経験。
最初からわかりやすい偽ルートにはひっかかりもせず。
パズルは知識をもとに一瞬で解いて。
罠はミニ私とミニ私が組んであっという間に破壊していく。
「ムムッ……」
「よし」
リーダーがうまくいかないことに唸る。
向こうの方では物理的に障壁を壊そうと結界自体を殴ったり向こう側にいるウォールを攻撃しようとしたりしている。
雷神は仕事柄なのか貫通攻撃と呼ばれる攻撃を障壁などを透かして突く攻撃を覚えているらしい……
私は私の方で集中。
もちろん専門的な用語を使ったりこんな例えをせずに直接的な表現しなくても良いのだがわかりやすさ重視。
だいたいこのようなことが行われているということだ。
大迷宮を探索したミニ私たちは山のようになりながら1つの道へ流れ込む。
その先には秘密の抜け道。
製作者すら知らない裏口だ。
正面ドアは何重にもロックされているがちょっと脆そうな壁に体当たりをかますと内部への道がひらける。
そこに土足で踏み込むわけだ。
当然内部は大慌て。
ミニ私たちは足場を固め裏口を塞がれないように補強。
そのままなだれ込んでいく。
内部は結界維持に重要なもののオンパレードだ。
そして働くミニリーダーたちもたくさんいる。
こうなったら大乱闘だ。
内部はデリケートなため物騒な罠はだいぶ少ない。
その代わり目の前で隔壁を閉められる。
この隔壁のやり取りがくせ者であらゆる道を塞ぐと向こうが行き来できなくなりライフラインが絶たれて結界維持が不可能になる。
向こうは切っていいラインや封じ込められるライン有利になるラインを把握しつつ防衛し裏口を塞ぎにいかないと行けない。




