六百三十八生目 遍歴
私とアルセーラはすれ違いざまに何度もせめぎ合っている。
あるいは外から見たらじれったい攻防かもしれない。
一瞬すれ違ったかと思えばすぐに離脱してしまうから。
ただ互いにもはや遠距離攻撃は何度も凌ぐ。
大技の中距離攻撃ならばなんとかなるだろうがはたしてこのせめぎあいの時にそんな大きなスキをさらせるだろうか。
確実に斬り込まれるだろう。
「ずっと長い間、朱竜と話してないんでしょ?」
「フン、朱竜様のことをオマエがアタシより詳しいはずもないだろう。話をしたかどうかなど、契約にはかかわりないことさね」
「キミが時の流れで大きく変わったのと同じように、朱竜も変わっていったんじゃないか?」
「減らず口を!」
むしろ……あの過去記憶を見たさいにニンゲン側と神側の微妙な食い違いが気になった。
なんだろう。
むしろ初めからボタンをかけ違えているような。
それに朱竜はここの時空渦をしつこく破壊しようと試みていたらしいし。
もしアルセーラが朱竜と真意を違えていたら……
悲惨な未来しか見えない。
さてまずは目の前にいる相手をどうにかせねば。
アルセーラとかも含むのだが長く永く生きたものが最強格になるわけじゃない。
生物としての質や上限それに方向性。
それにあまり有名ではないが自らの命をかけた激戦ともなると今後の成長ともどもに強化補正が入ったり特集な能力への道がひらけたりするようだ。
トランス自体もまあそうなんだけれど。
そしてそんな機会は自分から引けることは滅多にない。
強さとは組み合わせ方もあるしそもそもの鍛え方。
技術の学びや開発もある。
あと単に強いのと医術に優れていたり物事を考えたり指揮をするのに優れていたり。
能力。特殊性。その他もろもろある。
アルセーラはおそらく……
「まったく、ただまだ子どものような年齢なのに、そんなに強いだなんて嫌になるさね! アタシはどれだけやっても、すぐに自分だけの強さは頭打ちが見えた……上には上がいるのを、ありありと実感させられたさね。だから、自分の才を、別の方向に伸ばした」
牽制程度に剣ゼロエネミーを飛ばす。
クルクルと危険な刃が回転して敵に向かった。
ただアルセーラはまともに相手をしない。
壁を蹴り剣ゼロエネミーの突撃を回避したあとその場には黒い塊。
それがすぐに爆発して剣ゼロエネミーを襲う。
剣ゼロエネミーがダメージを受けて吹き飛ばされてしまった。
「……ッ、暗躍と、違法商売による金稼ぎ」
「そうさね。それを昔のアイツらは気に入らなかったらしい……むしろ、アタシからしたら、何をしてでも朱竜様の居城と国を再興させねばならなかったのに、生ぬるいことを言い出したさね。まったく、それでいて、組織が大きくなるにつれ、どんどんと最初の方針は歪められ、アタシは、フォンダター派と決定的な離別をした……幸い、こちらにつく味方も多かったさね」
さっきからすれ違い角を曲がりさらに駆け出すさいの1撃ごとの重さがしんどい。
ただこちらも負けじと押し出している。
向こうもしんどさはあるはずだ。
かなり当時の感じがアルセーラの斬撃から伝わってくる。
怒りや苦しみもあったが……
1番は無念。
「……そうか、アルセーラだけが長生きできたから、アルセーラのように周囲は初志貫徹なんて、できなかったのかな」
「……そうさね。だが、知った口聞かれると腹がたつさね!」
「うわっわ!」
切り裂きとほぼ同時に蹴り込み!
パターンとパワーを変えてきたのに対応しきれず。
剣はゼロエネミーで防いで蹴りを針つきの鎧針で受け……ようとして展開が遅れる。
蹴りに単なる蹴りを合わせるかたちになってしまった。
バランスを崩してふっ飛ばされてしまった。
追撃に備えてぐるりと回り飛んできたアルセーラへイバラを伸ばす!
「っ!」
アルセーラが猛毒を垂らす尾のイバラを回避している間に空中制御を取り戻す。
着地スキを隠すように柱を蹴ってから滑り込むように着地した。
「……長い間、アタシたちは潜伏し、苦しみを耐え抜いたさね。本当に長かった……コネをつくり、サポートに周り、やがて裏社会でも立場ができて、大量の資金を稼ぎ、アタシの才能は、戦闘ではなくて、人の欲をくすぐることだって気づいたさね。魔王復活、それを利用することで実現できそうな夢、それらの吹聴は、実にうまくいったさね」
……こんなところで裏ボス登場とはね。
大きめの広間に脚をつけた私達は互いに駆け出す。
残りの生を削り取るために。
「そして、変身に……悪魔に希望を見出した」
「そうさねえ……ただ、わかるだろう? 計画をぶっ壊してくれた勇者様どころか、パーティーのひとりであるアンタたち相手にすら、ここまで苦戦する。魔王相手に大立ち回りした相手に対して、あまりに力という面では役者不足さね」
アルセーラは……いやほとんどのニンゲンは魔王体内での出来事は知らない。




