百六十八生目 解熱
ここまでで穴子4匹を斃した。
残りはマグマの中に逃げ込んだ1匹だ。
相手はマグマの中を泳ぎこちらを最大限警戒している。
スキルによる自動言語学習が終わったらしくログに記された。
穴子がこちらの様子を見るためにマグマから顔を覗かせた。
「ぐっ、みんな死んでいる……!?」
「ああ、"私"が殺った」
「な!? 喋った!?」
まあ今さっき言葉がわかるようになったんですけれどね。
「くうっ、よくも!!」
「恨みは無いが、まあ"私"としては殺し合いが楽しめれば良いし」
穴子の黒い皮膚が一気に赤熱する。
何か来る。
穴子が吠えると同時に熱光線が飛び出した!
首を重々しく振るい光線で薙ぎ払ってきた!
そんなような気はしていたから空魔法"ミニワープ"をなんとか唱え……終わる! 発動!
熱光線が"私"を焼く前に離れられた。
岩陰に隠れていると熱光線を吐き終わった穴子の周囲はマグマが冷えて固まっていた。
すぐに周囲のマグマに飲まれていったが膨大な熱を周りから奪って放ったらしい。
逆に言えば当たればマグマの熱をそのまま大量に連続して浴びるようなものだ。
こりゃマグマに逃げ込まれたのはラッキーじゃなくてアンラッキーだったか……?
そう考えている間にも刺すような殺気がこちらを捉える。
鎧がガチャガチャ鳴っているから僅かな音でバレたか。
穴子はマグマに潜ってから何らかの魔法を唱えたのか魔感に引っかかった。
正体はすぐに判明。
マグマから金属が飛んできた。
確かにマグマに棲む同士で戦う普段はどうするのかと思ったが細長い金属棒を生み出すとは!
魔法の金属棒は非現実的ななめらかさで"私"の隠れていた岩に飛んできた。
跳ぶように転がって岩陰から出ると金属棒が岩に突き刺さりそのまま貫通した。
あっぶない、ニンゲンによる狩りの投げ槍のように鋭く重い!
さらに連続で飛んでくる。
ぐっ、全身甲冑重い!
身を捻って鎧頼りで直撃を避ける。
1撃2撃と飛んできてガリガリ鎧を擦って火花を散らした。
そのまま当たることは避けたが直撃じゃなくとも痛いものは痛い。
鎧越しで衝撃だけなのが幸いか。
まだ相手のいるマグマまでは距離がある。
さらに飛んできた金属棒をステップして避ける。
それと同時に穴子が顔を出した。
溶岩弾を連発!?
うわっ!
ちょっ!
ああっつい!!
回避のスキを突かれてマグマを左肩に受けてしまった。
一瞬で鎧が加熱し肩を焼いた。
私の鎧はしょせん針が変型した有機物、火がついた!
慌てて避難しつつ火魔法"解熱魔法"を唱える。
熱が霧散し火は消えたが中は火傷したな、痛い。
今思わずその場で転がり回らずにどこか冷静に唱えれたが、もしやこれが"戦士の心"の効果か?
それに肩の痛みも確かに痛いとは分かるがだからと言ってそれに気を取られるとか辛さを感じることは無い。
"戦士の心"はこうやって強靭度を上げるのか。
なんとかいける。
肩にはいまだに冷えて固まった溶岩。
これは重くなって厄介……
あっそうだ。
「コイツも喰らえ!」
「殺して良いならね!」
再び穴子の表皮が赤熱しだしたので手頃な岩へ隠れ"鷹目"を使って放熱なぎ払いを見届けつつ唱える。
アレを食らったら痛いでは済まない。
穴子は周囲のマグマから熱を奪っているためどんどんと周囲が岩へとなっていく。
今だ!
強化"解熱魔法"!
穴子の周囲に赤く点滅する光の靄が広がる。
「な、なんだ!? 身体が……」
音を立てて冷えて固まるマグマたち。
放熱し終わった穴子が首を引っ込めようと思ったら動けなくなったらしく身体をねじっている。
予想通りなら彼の周りは今全てが冷えた溶岩だ。
穴子が周囲から熱を奪うと同時に"私"が魔法で周囲のマグマから熱を奪ったので普通ではありえないほど多くのマグマが冷えた。
結果的に逃げ場が無くなったのだがいずれ周囲のマグマがまた溶かしてしまう。
なのでダメージ覚悟でつっぱしる!
「くっ、させるか!」
「うおおおおおおお!!」
ガチャガチャ鳴らしながら突っ込む!
マグマ弾を半歩ずらして避ける、避ける!
ザッと掠ると同時に猛熱で痛むが無視できる!
「ぬああああ!!」
穴子が狂ったかのように叫びながらマグマ弾を撃ち込み"私"は少しかぶるがまだ耐えられる!
魔法で飛んでくる金属の槍を槍状に変形させた頭の鎧で打ち払う!
間近に迫りマグマ弾が吐かれるが避けられない。
だが避ける必要はない!
「らあっ!!」
"すくい上げ"!
体ごと捻って腕を曲げて豪爪に鎧を変形させた右前脚がエフェクトを纏って下から切り裂いた!
マグマ弾を。
そしてその熱を持ったまま穴子を!
「が、ばかな……」
穴子は漏れるようにそれだけ言って絶命した。
身体が八つ裂きになったのだから当然だろう。
あー、でも最後のマグマ弾でドロドロに爪が溶け燃え出している。
ちょっと痛いの限界通り越しそうだから早く解熱いだだだだあっつつつだだだだ!!