六百三十七生目 局面
アルセーラが自信満々に語った夢物語にも等しいこと。
しかし今目の前で起きていることは現実。
時の渦が彼女に味方している……!
「良いでしょう、アタシたちの力、計画。本格的に時を戻し、本来の神が持つ力を降臨さえできれば、再び不敗の国が出来上がる……こんな言うことを聞くだけのデクじゃなく、あのころから寄せた本物のみんなとまた会える……アンタ、他人を不幸にしたくないタチなんだろう。良いのかい? アタシたちのささやかな願い……邪魔をしてさ」
「だからってこんな大規模に何もかもを悪化させて言い訳がない、そもそもささやかどころか、国や大陸も巻き込む気じゃないか!」
「それの何がわるい、全ては朱竜様のものさねっ。なんなら、勝ち取るものが全て奪うのが世の常、今度こそアタシたちはうまくやる」
「そんな勝手、私は認められない!」
「だったら……交渉決裂さねえ!」
うわあ4体も正規兵たちがつっこんでくる!
これはどれだけ強くなろうと一定範囲内ではあるあるだが……
数の利による暴力はえげつないほどに有効!
イバラを床に叩きつけて反動で一気にさがる。
その勢いで敵たちは様子見を一瞬だけしてくれた。
道を変え部屋に入り込む。
「ま、待て……まだ決着は……」
「あなたの相手はわたくしです!」
「ぐっ!?」
『クオーツ! リーダーはパワーが怪力だし遠隔攻撃はこわいけれど、戦いの素人だから内に回り込んで恐れずボコって!』
私はゴーレムたちへの指示という形で出来る念話で作戦を伝える。
戦ってわかったことがある。
戦闘を力押しでやっているがバトルセンスがない。
バトルセンスは良く鍛えた鋼をするどく研ぐのに似ている。
一振りの剣が出来上がるまでがバトルセンスだ。
そしてリーダーはバトルセンスがない……明らかに力だけ手に入れてゴリ押ししてきている。
ただしく変身という付け焼き刃なのだ。
パワーはあり高い火力の攻撃を放り込めるけれどそれだけ。
ゴーレムたちは私の魔法を簡単に借りられるから浄化も問題ない。
ローズクオーツは力いっぱいリーダーの上から腕を叩きつけて黙らせていた。
『えっ? は、はい、そのとおりに倒します!』
「再稼働完了。迎撃開始」
そしてここですっかり置物になっていたノーツの乾燥が終わった。
途端に光から金属の銃を生み出す。
先程とは違う初期の銃。
それは連射が効かないが……
「あれは……! まずい追うのをやめ」
「発射」
――私の真横に迫ってきた1体の兵士が撃ち抜かれ爆発した。
吹き飛ばされたのを私は少し距離をとって見る。
威力が前より上がっている……!
吹き飛んだ兵はそのまま壁を突き抜けていった。
もちろん不意をついたとはいえあれで倒せていたら苦労はないだろう。
しかし兵たちの動きが止まった。
反転してノーツたちの方へと戻っていく。
『ノーツ、その兵士たちはかなり手強いけれど、遠くから撃ち込まれたときはそんなに強い手がないはず。私の戦いで得た記憶を共有するね』
『……受信完了。データ修正。戦闘行動再開』
こっちの念話も打って……と。
少し遠くからガチャンッと射撃の音が響いた。
兵士たちに頼れなくなったアルセーラが追いついてきた。
アルセーラの顔は不満げだが同時に隠しきれない怒りも抱いている。
私に対してかはたまた何か別か。
まあ誘いを蹴ったからそう思われるのも当然ではあるが。
あんな誘い乗れるわけがない。
こういうタイプって基本的に反省してより自身の生き様を貫き通すだろうし長年積み重なった苦心もある。
そして当然のように話して理解し合える仲でもないときた。
「どうやら、ついて利のあるほうもわからないようさね。それに、ここの戦闘結果なんて、何もこの後に影響を与えない。全ては朱竜様の御心のままに決まるさね」
「私はそうは思わない。ここの戦いは、絶対に最終局面に響く」
「なら、せいぜいあがいてみるんさね。朱竜様の勝利は絶対だから!」
「……朱竜は、誰の味方なんだろうね」
「っ何が言いたいさね!」
アルセーラとともに高速で動きながら話す。
そして話しながらさっきから何度も交戦している。
やはりアルセーラはえげつないほどに強いのを感じる。
ただなんらかの……それこそ朱竜と共に時空渦をひどく扱うためにエネルギーを温存している感じだ。
土や岩であれほど私を跳ね飛ばす程度のパワーを見せつけ無効化貫通してくるということは正しく最上位の能力なんだろうし。
ただ効能が薄いと踏んでからは直剣の技工が鋭く斬り込んでくる。
一瞬駆けながらこちらに踏み込み武技やら強い切り込みしたあとすぐに位置を戻し離れる。
一連の動きが手慣れすぎていてこれこそがバトルセンスの磨き上げだ。
更に基礎能力もレベルも高い。
純粋に生きてきた年数が違う。
ただ戦闘能力を引き上げただけではなく多種多様な方向に自身の才を伸ばしこのときまでにたくわえにたくわえたのか。




