六百三十四生目 浸透
敵アルセーラの頭上に土岩を落とす。
普通ならば無惨に潰れるしかなりの手間取る。
避けるにしてもスキが大きい。
さあどう出る!
「ナメんじゃ……」
アルセーラは真上にある魔力にはすぐ気づいた。
アルセーラの能力だ。
近距離なら視界に入っていなくても全て把握する。
そして大きくその竜口を開く。
「ないさねっ!」
「わっ!?」
飛びついて……食べた!?
視える……魔力が変動している。
魔力を喰らった……吸収だ!
土岩はなくなり敵の魔力となる。
こんなことになるなんて。
効かないかもとは思っていたが吸収とは……
「なるほどこの味……そっちの得意も大地に起因するわけさね?」
「そんなこともわかるんだ……」
「さっきから岩の力がミョーにオマエに薄いと思ったら、なるほどねえ、こりゃあ互いに岩系統はあまり使わないほうが不毛じゃなさそうさね」
「それは……同意!」
私とアルセーラは再度跳んでより物理的な接触をこころみる。
互いに敢えて近場まで何もせず……
互いの顔が一気にしかめっ面となる。
そこからは互いにためにためた力で足をふんじばり。
斬る。殴る。受ける。逸らす。弾く。裂く。穿つ。
ラッシュラッシュラッシュ!
向こうは容赦なく赤熱した剣がどこからともなく増えていく。
いや……身体から生やしているのか!?
さらに全てが威力不足にならないように勢いを殺さず振ってくる。
私も一切の受け損ないがないようにイバラもだすし剣ゼロエネミーと銃ビーストセージを叩き込んでいく。
それらを再生能力でゴリ押してきている……!
「ハァッ!」「ヤアァ!」
よく戦場では歯を見せたほうから死ぬというジンクスがある。
つまりは勝つ前に笑うな油断するなという教え。
まさしく今その教えが身にしみている。
目の前に広がる攻撃の殴打をどう避けて逆にどこにこちらの手札を切るか。
ラッシュとはつまりそれらをずっと考え続けることだ。
そんな時に表情筋へ回す余裕なんてない!
当たり前だが脚の立ち位置を変えるというのすらラッシュ時には重要となる。
インファイトは互いに命の危険そのものの向き合うこととなる。
正直勝てる見込みがなきゃやりたくない。
それでも!
(大丈夫だ、"私"なら勝てる!)
ドライの自信に任せつつ私は私で魔法の下ごしらえ。
土や地魔法がダメでもまだまだやりようはある!
「スッ――」
もはや何十打目か。
突如息を吸いながらスキをさらした。
ブラフだ。
誘ってきている。
ここで決める気なのだろう。
いかにも打ち込んでこいといわんばかり。
当然誘いにのれば打ち砕かれる。
がしかし乗らないなら乗らないできっちり大技を決めてくるだろう。
変身して悪魔の力がある以上息切れによってわざわざ息を吸ったはずはない。
私も神力がある状態ならそこまで息は意識しなくていいのだし。
正確には息継ぎするために身体を止めるほどしなくてもいいということ。
"止眼"で思考時間をギリギリまで伸ばしてラッシュをこなしているけれど……
ここからは再度じゃんけんだ。
最初はグー。
じゃんけん……
「カーッ!」「いけーっ!」
私は武技"爆散華"を銃ビーストセージに。
剣ゼロエネミーには武技"波衝斬"!
ショットガンのように大量の光をまき散らしながら放たれる弾丸と近距離なのに飛ばす斬撃の光。
対してアルセーラは口から閃光がほとばしる。
まるでドラゴンブレス。
しかし竜のそれとは違いもはや叫びと言っても良いような1撃。
勝敗ははたして。
斬撃が飛び質量のともなった閃光を食い止める。
さらに近距離だけなら威力の高い散弾状の光が押し返しくいこむ。
近距離ゆえに本来なら強くはない"波衝斬"の斬撃はことここにきて遠くへ届くという目的を果たす。
"爆散華"がアルセーラの口からビームに対して食い合い威力に破れ消えるさなかビームも威力を落としていた。
ただ斬撃だけは目標に達するまでの推進力を保っていた。
光を斬り裂く。
そんな夢物語のような光景が今アルセーラの目前に迫っていた。
「ヴァッ!?」
まともに喰らったアルセーラが背後に押されるのを追いかけ身体を回して大きく蹴り込む。
廊下までふっとばし急いで追いかけて。
そのまま倒れ込んだところを地面に叩き込み。
さらに闇魔法!
[オズモシス 闇の中に沈めて邪気を鎮める]
聖と邪はコインの裏表のようなもの。
光と闇もそうだ。
闇のほうが扱いにくいけど。
ただ闇は聖の親戚みたいなものらしい。
なんか魔法に似通ったものがある。
いやだなあ聖も闇も似たものとか。
降り注ぐ光……ではなく闇が光を奪って沈みゆく。
「「ガアァァァ!!」」
悲鳴がアルセーラと変身因子……悪魔の分。
かなり効いていそうだ。




