六百三十三生目 動壁
もちろんこれで倒れてくれれば御の字。
現実はそううまくはいってくれないが。
壁の向こうにふっ飛ばされてその穴がどんどんモヤによって治るのを後ろに見つつ。
大質量の爆発を叩きつけられた形になるがやはりというかなんというか。
変身の力によって壊れた鱗や肉がほどけるように落ちて行き代わりの新鮮な血肉が湧き上がり鱗が埋める。
再生により行動が大きく制限されていそうだが致命打にはならない。
このチャンスを活かさないわけにはいかない。
あの頭にある悪魔の目を剥がす!
イバラを伸ばしつつ聖魔法"レストンス"!
イバラで敵を縛りすぐに床へ叩きつける。
私が真上から聖なる光を浴びせた。
私がさきほど火系をほぼ無効化して突っ込めたのとおなじように向こうはどうしたって聖とか光とかそれこそ闇とか苦手なはずだから。
割れた目を覆っているレンズのスキマから優しいと言うには眩しすぎる光が降り注ぐ。
「「ギャアアアッ!!」」
絶叫が2重にぶれて聞こえた。
悪魔とアルセーラのものか。
私は勢いを殺さぬように壁を蹴り地面を駆ける。
アルセーラもすぐに飛び起きて反撃と言わんばかりに石の礫を投げつけてきた。
イバラではじき改めて周囲の様子を見る。
「ウォー……!!」
「……ン……!!」
「う、重いっ!!」
見るとすぐ近くで3名が戦っていた。
ウォールといった敵と雷神それにアカネだ。
こっちはこっちで戦闘を継続しつつ横目やら"鷹目"やらで見る。
あとは聴く。
聴いていればだいたいのことはわかるのだから。
向こうの方ではウォールがその身で押しつぶさんと足で踏ん張っていた。
互いに交戦の跡があり傷と汚れをたくわえ力比べしているようだ。
雷神の武器が1つ小盾。
そしてアカネの巨大化した両腕。
危険なトゲをうまくふせぎ敵を押し返そうとしている。
ただ足が空振っているのはどちからといえば。
「ウォオオオル!!」
「嘘っ!?」
食い止めていたはずの敵が再加速して雷神とアカネは驚いただろう。
ただウォール側としては再度攻撃スキルを使っただけのこと。
まさしくパワーのゴリ押し。
耐えきれずふたりは吹き飛ばされ質量とトゲ双方の痛みが走る。
さらに光の勢いでふっとばし壁に叩きつける。
雷神は受け身をとれたがアカネは失敗して嫌な音が響く。
ありゃあアカネは何本かいったなあ……
雷神は立て直すのが早く足を止めぬように駆ける。
「ウオオォォ!!」
ウォールは叫びながら胸を張るように叫び腕を縦に振る。
まさしく勝者の叫び。
もちろん力比べに勝っただけだけど。
なによりも怖いのは今何本か折れただろうアカネが当然のように立ち上がりさらにバキバキ言わせて肉体変化させつつ足から蹄が見え隠れしているあたりか。
アカネの変身する差異はどこまであるのか私も知らない。
少なくとも昔より遥かに多い。
「ちょっとは楽しめそう、ね!」
アカネが飛び込み雷神と共にウォールに対して懐に行く。
ウォールは愚直に腕を振って……
ふたり揃ってジャンプ。
回避したところでもう片腕がある。
襲いかかってきたところで雷神は素早く敵の頭を踏みジャンプ。
アカネは身を翻し腕を振るう。
硬質化した腕はウォールが振るってきた腕にちょうどかちあい。
アカネはうまくふっ飛ばされた。
ニヤリとした笑みと共にそれが予定通りの跳ね上げだと黙して語る。
当然重力落下をするがくるりと回るうちにその姿は凶暴性を増す。
巨大な剣のような鉤爪。
太く分厚い刃としてウォールの頭を切り裂き……
雷神がさらに押し込むようにその上からかかと落とし。
足という武器だ。
この押し込みはかなり効いたらしく硬質な外殻がグサリと深く引き裂かれた。
「ウオオォォ!?」
「ウスノロ」
私はアルセーラの振るう剣戟をイバラや鎧で受ける。
うまく飛び跳ねてイバラ地面叩きつけに巻き込み起点をつくり。
向こうが防ぐのも構わずゼロエネミーを回転させながら突っ込ませる。
行動反動でうまいこと立ち位置を変えつつアカネたちが戦う近くにきた。
「首尾はどう!?」
「見ての通り、やっと遊べる相手を見つけたところ!」
「……ん……」
「わかった、回復だね」
雷神がやはり傷の治療を頼んできた。
アカネも雷神もすぐに立て直せるものの生命力を犠牲にしないわけではない。
アカネが再生すると行動力を消耗するしあまりやりたくないはず。
もしアカネが本気をこえた向こう側の姿になれば別だったが……
そうでない限りあくまでこのちいさな体並の強さとなる。
そこらへん考えると"ヒーリング"は大事になるか。
ふたりを回復と切れかける補助をかけなおしつつすぐに後ろへ跳ぶ。
足元に石のつぶてが刺さった。
お返しに土魔法"ストーンフォール"!
さっきから敵の岩や土を完全無効化できていないあたり結構きなくさいけれど……




