六百三十生目 連射
アカネは変身の剛力を活かした殴りかかりに対して元祖変身の力で頭から食らいつくことで対処していた。
量産型のリスクなんて彼女が無理矢理とらされたリスクに比べれば些細なものだった。
死んだ程度では許されないリスクを。
そんな彼女に許された正気度の失われそうな行為は悪魔喰いである。
私はこっそり教えてもらっていたから心配しなかったが実はアカネの力は対変身特効だ。
ああやって相手の変身能力そのものを喰らい掠め取ってしまう。
悪魔の目をえぐりだし喰らったアカネはさも当然かのように兵を放り捨てる。
今やったことは他人にはできないが当人にとってそこまでかわったことはしていないのだ。
むしろ脳内では現実の戦闘らしき戦闘は淡々と処理する感じになってしまったことをつまらなく思っているだらう。
あの年代が考えることはなんとなしにわかるぞ……ニヒルな笑みを浮かべてスレスレで命のやり取りをして。
その上で敵をちぎっては投げちぎっては投げしたかったのだろう。
実際にちぎって投げたのだけれど何かが違う……そんな顔をしていた。
ゆえに足りない。
まだ足りない。
そんな足取りで次の犠牲者を探しに行く。
ゴーレムふた組はそんな彼らの活躍を見ていてドン引きしていた。
「普通にこわいんですけれど、なんなんですかあの動き……速すぎるか力強すぎるしかない……」
「能力採点修正。凶悪度さらに加速」
ローズクオーツはわかりやすいがノーツは一見わかりにくい。
しかし能力を見る数値に凶悪度なんていうデータ化しにくいものを組み込んだ時点でドン引きしているのだろう。
カルマ値とはまた違う。
さてそんなゴーレムふたりだが彼らは別にサボっていたわけではない。
なんならローズクオーツの腕はしきりに伸びたり縮んだりを繰り返していた。
ノーツは巨躯ゆえ無理な動きはできないかわりにさっきからずーっと何かを手元から発射している。
「やっぱりわたくしたちじゃあ、普通に力不足を感じますね……まあ後輩も後輩なので、致し方ない面はあるのですが、それでも追いつく努力をしない理由にはなりませんから」
「同意」
そんな彼らは涼しい顔をして。
「「ぎゃああーー!?」」
「誰かあの射撃止めろー!」
「近づけねえ! 全部腕が、腕が!」
「死ななければ何してもいいと思ってるのか!」
轟音。
それは火薬がわりの魔力が爆ぜる音。
魔金属が擦れ合い発射される音。
斬撃音。
打音。
それらは全て弾かれるように。
まずはローズクオーツ。
その場からほとんど動かず振るわれる腕はいっぱしの剣士が踏み込みながら行うものより断然えげつない威力の攻撃に変わっていた。
まず彼らはレベルが若いのでバンバン成長する時期。
双方基礎的な能力値が右肩上がりしている。
それと誰に似たのか成長度合いも成長効率もいいらしい。
シンプルな能力値の高さで上から殴るのは正しくブレることのない強さ。
ただそれだけでは前まで変身体1体いるだけでまごついていた彼らがここまで化けるわけがない。
シンプルな能力値上昇により強力……または凶悪な能力が足されなければ。
ローズクオーツは錬金術を学んでいた。
自身の肉体は非常に錬金術に向いているテテフフライトで構成されているのだからと。
師から得た能力はローズクオーツへ確かに引き継がれていた。
巻き込む。
それが本質と言ってしまえば良いのか。
一級品の業物が。
一張羅の鎧が。
者によっては変身体の体すら。
腕が振るうとそこに引っ付いていた。
斬りかかった剣が取り込まれるのだ。
なんの邪悪スライムなのか。
しかも取り込まれるだけではない。
瞬時に融合をさせてローズクオーツの手先をより凶悪な力に変えていく。
剣を取り込めは鋭くなり鎧を取り込めば固くなる。
槌なんて取り込めば叩きつける力すら増す。
ならばと魔法も試しているようだがうまくは行っていない模様。
そもそも魔法が腕で弾かれたりもしているし。
これを地味だ力不足だと言われたら全力で否定したくなるのはこの場にいる面々共通の考え。
しかし並び立つノーツがおかしいのは誰が見ても明らかだった。
……さて。
強力な変身をもってしても抑えきれなかったものとは?
そう。軍用魔法と軍用兵器だ。
どちらも戦術級と戦略級があるけれど少なくとも前者でも喰らえば兵は死ぬし変身体も体の再生を待つため引くこととなる。
そしてノーツが歩く固定砲台という矛盾存在として持ち歩いているのは軍用兵器だ。
前の撃ち込むと爆発する銃弾もひどかったが今の銃弾もかなりひどい。
音がバリバリと表現されるほどに銃弾の雨が振るような連射だ。
一体どこから知識を引きずり出したのかはたまた独自スキルなのか。
おぞましい銃の連射。
いわゆるニンゲンが持てる小銃ではなくただしく銃だ。




