六百二十七生目 追撃
彼女に地道に遠くから攻撃をし続ける。
それを何回も何回も繰り返す。
ちまちました攻撃に彼女は腹を立てているようだった。
「くぅー……! 出てこい!」
種を明かせば簡単なもので。
彼女の目は別に壁を透かして見えないのだ。
私は透かして見える。
ずっと彼女とは障害物を挟んで中距離を保ち。
常に彼女の不意を狙っている。
獲物が油断したくなくとも油断してしまう瞬間というのは昔からよくドライが知り尽くしている……
私は彼女の影みたく移動している。
これは正直やられるほうはたまったんもんじゃない。
自らの影をおいかけるほど不毛なことはないんだから。
「どこさねっ!」
怒りの声とともに周囲へ大量のトゲ状岩を吹き飛ばす。
なるほどこれは結構こわい!
距離がないと今のは巻き込まれていたな。
お返しにまた火魔法ビーム!
"レイズフレイム"はいかにも場所がバレやすい直線上のビームなのだが……
これはそこそこ熟練した上でやれる話として置きビームということが出来る。
つまり私がそこにいる必要はなくビーム台座は別にずらせるわけで。
たっぷり移動したあとで遠隔起動するだけでひどいことができる。
射撃方角をちゃんと修正して当てづらく見づらいのを当てることさえできればとても有用。
視覚を上からやると当てやすいよ。
みんなも"鷹目"を覚えて使おうね。
まあ相手も似たようなことは出来るかもしれないが少なくとも同時に壁を透かせなければこういった地形ではただ不利だ。
遠くからバタンバタンと音がするから何度も他の兵やリーダーとニアミスしているのだろう。
ただ私と彼女どちらも動きが高速。
うまいこと連携が出来ていない。
「おい! 回り込めって!」
「敵がってより、アルセーラ様が速すぎるんだ!」
ん?
「この狭さ、この人数、絶対何度もすれ違っているはずだ! もっと落ち着いて広がり、展開しな!」
「「は、はい!」」
いまなんと?
アルセーラ……
同名かな?
そういえば昔"観察"したときもそのような名前が……
でも顔ぜんぜん違うしな……
火魔法ビーム!
「ぐっ!?」
「今度はあっちからか!」
「よし、広がって視界を確保しろ!」
「見えないはずがない!」
実際やられるとかなり不便な陣形を組んできている。
こうなったら足を止めないようにしないと。
「そっちに何かが!?」
「な、なんだ剣がグハッ」
「うおああ!? 銃弾が!」
当然ブラフもまぜる。
はたして行き交う影は私か何かか。
それとも私から伸びたイバラか。
彼らはいちいち判断して向かうしかない。
かなり大変だろうけれどやってる私も大変だからおあいこだ。
念話が……入った!
よし。
ならばそろそろきつくなっていたし仕上げに入ろう。
「ぐうっ!? また嫌がらせの光線を……何度やっても効かないさね!」
「うおう!? 私達の方にまで岩とばすのやめてもらえます!」
「知らないさね、そのぐらい気合でよけな!」
「そんなあ!」
「またきた! 流石にわかってきたよ、そこさね!」
「うっ!」
今度は私の真正面まで岩が部屋を貫通して跳んできた!
壁は粉砕されてもすぐに桃色のモヤに包まれて直ってしまう。
それが視界を悪くする原因なんだが……
ほぼ正確に狙いをつけて飛んでくる岩は視ているとはいえ心臓に悪い。
毛を散らし身をよじって避ける。
ちょっと毛皮切れた!
いたた……
足だけは止めないように。
私は急いで味方召喚の空魔法"サモンアーリー"を唱える。
「いたぁ!!」
「ちょっ!? まっ!?」
リーダーに見つかったらしい。
"鷹目"を狙いにつけている分周囲をそんなに見られないんだよね……
一気に伸ばしてきたのは舌かな。
それがムチか何かかといいたくなる音速の2連撃。
すれすれ鎧針展開で嫌な音をたてつつもガードできたのは奇跡だと言ってもいい。
音の分私の内側に響いたし。
うん? 今ジュウって音がした?
私の針鎧が溶けている!?
慌てて切り離す。
まさかの溶解毒……前リーダーと戦った時はそんな記憶はなかった。
既に私は全身に自己の毒を回して毒を転換し活力としている。
その肉体を持ってして多少とはいえ毒ダメージを?
前の時はいかにも初期バージョンで水を中心に組み立てていたしその上でボコボコに全身殴って倒していた。
変身のバージョンがかさむごとに弱点が減り押し付ける強さが増している。
徐々に誰も手がつけられなくなっていないか……
「よくやったさね!」
「うわっ! とっ!」
やばいいまので少し遅れた。
剣戟が飛んできてスレスレで針を束ねそらす。
さらにでかい岩槍をアルセーラが掴んで突きつけてきた!
イバラで受け止め絡め鎧化させた針でそらしてやっと私が吹っ飛ぶ程度で済んだ。
いったぁッ!
背後に壁を叩きつけられそのまま貫通。
勢いを失ってくるりと回ってから壁に着地した。
すぐに来た追撃の岩を駆けて避ける。




