六百二十五生目 致命
よし……"観察"!
[オモイワク Lv.50 比較:少し強い 危険行動:大地叩き割り]
[オモイワク 個体名:ウォール 見た目を引くのは全身の外殻だが実際に凄いのはその重さをものともしない猪としての中身。身を寄せ集まるだけで不落の要塞になる]
比較が神力解放しているのに敵の能力が高いのは戦力そのものもだけれど彼の能力が原因っぽいなあ。
明らかにパワーと頑丈さが高い。
比較値というのはそこを数えるから。
「ウウ」
私が"観察"したところを痒そうにかきながらそのまま去っていく。
カンは良いけどにぶそうだなぁ……
そこらへんが強さになるから困るよね。
あの顎から伸びるトゲのような大きな牙と豚鼻は彼自信が本来猪の魔物なのだとわかりやすくアピールしていた。
私は張り付いていた天井からおりて本部に連絡を入れつつ向こうの話を聞き続ける。
……うーむ。
さっきのような話やら雑談がほとんどだ。
援軍を呼ぶためには司令がくだらないといけない。
とりあえず向こうはかなり重要に見ていてくれている。
多分すぐにメンバーを決めてくれるだろう。
ただそれは5分とか10分とかあとだ。
私がどれだけ見つからずにいられるかだなあ。
決まった後は私の魔法で呼び寄せる。
前までのワープ不安定性は薄れているから大丈夫だ。
私を起点にすれば引っ張れる。
……というか多分あの服が優秀。
神力を解放してわかった。
時の針で編まれた飾りは特にこの時間の狂う空間で強く働いている。
私だけワープしながら戦うなんて真似も可能だろう。
つまり向こうはかなり不利を強いられる。
いるのは合計21名……
絶対に強いメンバーだろうがまあなんとかなる範囲ではあるだろう。
……変身のことを抜けば。
変身が未知数すぎる。
しかも今の変身は周囲の兵も変身させているらしい。
私がなりふりかまわず神力使ってボコボコにするのならともかく。
朱竜相手の前にそこまでやると少し……
ただ悪魔の力は月の神たちが力の元。
戦うとなったら神力での戦闘はしないと。
やはり足りないのは頭数という話になるだろう。
「よ……し。ちょっと準備するさね」
「敵も来ませんからどうぞどうぞ」
「フン、最悪バレてそろそろ再侵入されてはいるはずだから、気は引き締めるに越したことはないさね」
ううん!?
またこちらに来る!
高速隠れ!
歩いてきたのは……
明らかにこの幹部級の中でも敬われている人物。
ニンゲンながらその風貌全容はゆったりとした服装で丁寧に隠されている。
彼女の名前はたしか……"かんさ
「っ!? 誰!」
つぅッ!?
上方に何か投げられた!
まさかバレるなんて!
急いで地面に降りると上空で爆発し光が広がる。
しまったな……
「ってオマエは! みんな! とびっきりの侵入者だ!」
「なんだって! ってあ!」
「まさか察知されるなんて……」
「舐めるんじゃないよ!」
ヒョロっとしたカエルのリーダーもやってきた。
リーダーが名前だ。
かなり厄介だ……
当然兵士たちもゾロゾロと駆けてくる音がしている。
彼女とリーダーはそれぞれ別の構えをした。
「「変身」」
リーダーは服を脱いで小さな果物ナイフみたいなもので腕に傷を入れる。
そして女性は服を正したあとに自らへ手から生み出す炎を向けた。
やがてふたりとも変身した悪魔じみた姿になる……
リーダーは前と違う。
前はニンゲン大に膨れ上がって青の生体鎧を纏っていたはずだが……
今は意外なほどに小柄を保っていた。
むしろスマートになったというべきか。
ムダが削ぎ落とされギリギリまで細身となった鎧姿はまさしく肉体すら削ってそこに鎧を生やしたかのよう。
なによりも大事なのはあの緑じみた色。
全身から細かく発汗するように粘液がでている。
においてきに……毒だ。
「前の時より随分改良したあぁ……同じだと思うなよ?」
女性の方は初めて見る。
ゆったりした服装が灰にはならず代わりに肉体として変貌していく。
服は頑強な肉体と鎧になり鱗ととなる。
その姿はまるで竜人。
しかし片目が覆われもう片目がレンズ状のもので覆われた時点でそれが変身だと訴えてくる。
不釣り合いなほどに巨大な翼は背からではなく腕として成り立った。
本能から来るような叫び声が響き渡る。
ニンゲンのものではない。
茶褐色の竜鱗は分厚くその目を魔力で輝かせる。
「今度はアタシも相手さね……オマエは読みを乱す原因だ、死にな!」
「「ウオッオオオオッ!!」」
さらにたどり着いた兵が片っ端から変身していっている……
最悪だ。
どんな強敵にも1対1で立ち向かえばまだ勝機はある。
しかしどんなに数合わせでも狭いところで囲まれれば致命的!
というわけで。
「逃げるが勝ち!」
「「待てーっ!」」
めっちゃ逃げる!
まず壁を駆けて兵たちの方に走る。
変身しているさなかだったからスキが多く簡単に抜けられた。




