六百二十四生目 猪魔
私は一通りワープの場所を確保してから改めて本部に連絡する。
『ちょっと気になることがあるんだけれど、砦の中からピヤア団か兵士かって出てかたのかな?』
『そういえばまだまだ見ていないな。とはいえ、空を抑えられているうえ、ひいた布陣の内側だから、そこまで観測を強めてはいないが。何せ数も、地上に比較してそんなにいなかったはずだ』
『やっぱりそうなのかな……ちょっも城まで行ってくる。偵察をして、何をしているか調べてくる』
『くれぐれも疲労をためこむな。今最優先は朱竜対策なのだから』
『もちろん』
念話を打ち切り一気に駆ける。
4足ならば速度は2足の比ではない。
しかも神力解放済み。
マッハで駆ける。
そう思っていたときには既に私は空気の壁を破っていた。
私でも驚くほど静かに場内に潜入できた。
ここは先程と同じ構造と仕組みになっているため順に進む必要がある。
ただし時間制限は撤廃済み。
それとさっき通った時よりだいぶ楽になる。
安定性をとらず速度だけ意識したさいに安定ルートを通りつつ身軽さから速度をだすというのが理想的。
というわけでちゃちゃっと敵ピヤア団あたりがどこにいるか走る。
「おい! ってあれぇ……?」
「今の突風か?」
「侵入者……ナシ」
「怨敵は、どこへ」
「踏まれた!?」
…………結構来たな。
雪原のウサギを超えて兵の合戦場に。
結局ここまで戻ってきてしまった。
つ……つかれたな。
やはりかなり気を使って飛ばしてきたから。
じゃないとぶつかるかもだったし。
そのまま進むとイオニムシがやってきそうなので慎重に気をつけながら進む。
やはり基本的にはそんなに敵は強くない。
イオニムシがかなりぶっとんで強いようだ。
においはちょっとわからない。
耳はいまのところ有用な情報を拾えていない。
城から出て……
またはしごを登る。
良いところは1つあるんだよね。
立て籠もるのに。
細い道のりをこえて……
イオニムシがいたのを見て全力で飛び込み剣をふるわせたスキに足元を抜ける。
さらにイバラで"縛り付け"して全力逃走。
しらんしらんこんなやつらがいるところで安心して休めるか!!
というわけで目安になる場所まで駆け抜ける。
あぶなっ!
慌てて跳んで剣から飛ばしてくる光を避けて。
地面につかないように浮いた。
あっという間に足元が凍てつくように変化していく……
変化のする足場が安定してから着地。
相手にするだけ面倒だ。
早く急ごう。
イオニムシからさらなる追撃を受けたりなんだりしながら更に先へ。
兵たちの喧騒が聞こえない……
本館エリアだ。
かわりにここでは聴こえないはずの音が聴こえる……
話し声だ。
そっと爪音をたてないようにしまって耳を傾ける。
「……で、いい感じに私達側が有利取れてます」
「……ウウ!」
「それじゃ、あんまり油断ならないさね。こっちの時空遡行拡大装置に気づいて妨害もされているんだろう?」
「ウゥ……」
「ま、私のデータによれば朱竜が到着次第……」
「朱竜サ、マ、だ! サ、マ! たく、いい加減覚えな!」
「あいて! まったく対して違いはないだろうに……えっと、朱竜サマ! が到着次第にここであなたの力とリンクさせ解放、一気に城を復旧させ乗っ取るんですね?」
「そうだ……やっとだ。やっとここまで来たのさ……1つも手抜かりするな! 朱竜様が我らにつけば、お前たちのあらゆる欲は、アタシたちのものさ!」
「まったく、よくここまで大きな計画を考えられますよ……さすがは貴方様といったところですか」
「……ウウ、ウウウ!!」
な……なんなんだ?
とんでもないことを話していないかな!?
しかもリーダーという男のカエル魔物も含む幹部クラスのかなり込み入った話が?
ほかのふたりもいるらしい。
静かにしているけれど他のニンゲンや魔物の気配もある……
というか今のこの時もずっと喋っているふたりがさわがしい。
うめき声みたいなのはもう一体あの女性を守るように立っていたやつかな。
主要メンツ勢ぞろいだったのかもしれない。
「ウウ……ウウ……」
「なんだいウォール、さっきからさ落ち着きなくて」
「ウウ……! オデ、トイレ行ってくる!」
「迷わないでくださいよ今度は」
え。トイレ?
まずい確かこっちの方の道に!
私は慌てて身を隠すとノシノシと音を鳴り響かせ歩いてくる1体の魔物。
暗がりの中からその正体が顕になる。
目が光を反射している……
その体は2足歩行。
全身からトゲのようなごつく鋭い者が生えている。
虫の甲殻みたいなものだがまるで全身鎧といったいでたち。
相当体が重いらしく歩くたびに床が悲鳴をあげる。
まったく屋内に向いていない。
長く伸びている尾も太く甲殻に覆われバランスが崩れないように左右へ振っていた。
その顔は下顎が激しく突き出ていて上顎ごと覆っている。
自らがニンゲンではないと物語っていた。




