六百二十生目 転送
私達が戦いの準備を進める数日前。
互いの経過報告をするため私はふたたび征火隊のバレットと部屋で会っていた。
「とまあ、色々考えはしたんだが……朱竜様、もしかしたらお許しにならないかもしれない」
「ど、どうするの!?」
バレットもさすがにヘラヘラしている場合じゃなく悪い顔色で語りを続ける。
……朱竜が猛襲撃をかけてきて撤退しても赦さないかもしれないと。
当たり前だが朱竜に直接狙われるとワープしても燃やされる。
全員の命を支払って……というのはあまりに釣りが合わない結果だ。
「まず朱竜様に勝つことは無理だ。朱竜様が保有すると考えられている能力そのものが必勝……戦力の問題じゃない。もちろん、信仰対象に牙を向けるのはそれはそれで別の問題はあるが……」
「よりだめだッ!」
「ただし、朱竜様を納得させることができれば……もしかしたら、傷をつけるとはいかなくても、焼くのは止めてくれるはずなんだ。そもそも朱竜様が過去の城にこだわる理由は伝わってはいないんだが、データ的にはたしかに執着している。朱竜様の逆鱗かもしれない。だから、過去の文献やデータを漁って、もしものために対朱竜様対策をガッツリする。それに……」
「うん?」
「それに、朱竜様に一時的にでも多少なりとも認めてもらえれば、各国の首脳陣が悪者と手を組んでまで外の大陸にあらゆるものを保存しなくていいのかなと思ってな……結局この戦いは、原因がなくなればそれにこしたことはない」
力なく笑うバレットの姿が印象的だった……
「……そうだ。それならば、朱竜を納得させられるかどうかはわからないけれど、こちらも大きな戦力を出せるかも」
「ほう? 既にだいぶ大きいが……?」
「音楽隊、次歌装填は!?」
「済んでる、タイミングを合わせてバフ歌を飛ばす」
「回せ回せー! 砲台、変身兵が来てるぞー!」
耳が良いので遠くにある雑音たちから1つ1つ拾う。
わかるのはあんまり状況がいいわけではないということだけれど。
今私がいるここではみんながおもいおもいの休みをとっている。
仮眠施設もあるからね。
みんなしばらくは騒いだが夜中ということで電池が切れたかのように休みだした。
……死滅にハウコニファーが変身したとき背負っていたよく見るくんことカメラはどうなっていたかというと。
結論から言えば着ていた服と同じ扱いを受けた。
いつの間にか地面に置かれていたがあの間録画もちゃんとされていたかは不明。
今もそこにある。
一応記憶しておくが服はきたままだった。
さてはて私が寝るのは……
私は"睡眠無効"も持っているから寝るタイミングは選べるし寝た時にベストでねれる。
朱竜が急接近してくる今僅かな時間も惜しい。
……朱竜の到達予想時刻は夜明けと同時。
地図上にまとめられた情報を頭の中で整理していく。
正直今の小競り合いなんて大した意味合いはない。
もちろん生き死にやら苦労というのはたくさんある。
しかしなんでも朱竜が全てを灰にしてしまう比較に考えると……
つまり到達した時点でチンタラしていたら敵味方関係なく燃やされるのは大前提……
実際のところ両軍は既に引き気味だ。
向こうも情報ぐらい知っているだろう。
現場の切迫具合はどれだけ丁寧に逃げられるかというものだ。
向こうは何らかの切り札をもっていてそれを実行さえできればおそらくは何もかもを時の渦をグンと広げてしまい……
何かが起こる。
実際今も所属不明で斬ると消える兵たちがたくさんうろついている。
城の方はなんだな不思議な感じだ。
崩壊をちょくちょくしているんだけれどその時間が巻き戻って復旧したりを繰り返している。
ここに朱竜が入れるかは不明だな楽観視はできない。
せめてワープゾーンが開けたらな……
双方外部からの追加支援を失っている以上撤退するにもワープゾーンが開けたほうがいい。
……ん?
この地図だと陸地がこうなっていて……
ここはなだらかな丘だけどこちらは隆起していて……
こちらの地形は低くて。
渦……今までは平地を覆っていた。
薄くなる箇所……まさか。
「ワープ、ひらける……?」
移動をとっととした。
単独なので敵に捕捉されるような真似はしない。
真夜中なのに戦闘行為を続けているあたりかなり苦労していそうだ。
こちらは魔物軍を用意しており魔物軍の本領は夜。
向こうは変身があるとはいえ魔物軍が少ないため夜は大変そうだ。
普通そこまで夜に軍を動かさなくていいがタイムリミットが朝なのでそうも言っていられないし。
結界維持装置は目論見通りあったらしい。
通常の塹壕物に偽装していたそうだ。
しかもだいたいが壊されにくいところに。
逆に言えば誰を守るのかパッと見わからない塹壕が設置場所になる。
まあ……似たような塹壕がたくさんあって全部壊すのは酷だが。
魔力探知チームと対妨害工作チームと破壊チームでいかなくちゃ行けなくてかなり大変。
まあ私が用あるのはそっちじゃあない。




