六百十八生目 死滅
いままで死滅の利用には同伴者が必要だった。
今さっきコントロール下に置いていたがひとりの利用は初めて。
ぶっつけ本番でやってもらうには……
「……私が安心させる!」
私は出来得る限り前に飛び出て大盾化させたゼロエネミーにハウコニファーを守らせる。
像の目がこちらを見た。
被弾を抑えるために普段の姿に……4足の姿に戻る。
イバラを伸ばすとそれらがビームで射抜かれ燃えた!
あっつい!
『汝ら、勝ちを齎し、矛盾を解決せん』
「自滅で矛盾してるのに……! 必ず勝つとか負けないから急速に育ちすぎて誰もコントロールできないと……! それを理解しようとせずに他者に投げかけるばかり、ただ外を焼くばかりで! 負けてるのは戦いじゃない!」
連続でめちゃくちゃ放ってくるのを鎧針で反らしギリギリを跳んで避ける。
スキルをフル動員して回避連打。
「……死滅の名にて命ずる」
ハウコニファーの詠唱が聞こえる。
それは凛と響いて。
不思議にもビームや防御で騒がしい騒乱の場に置いても響いた。
「我が身を散らし、おぞましき身を蝕む力を封じよ。朱竜様……私達はここまで時を重ねてきました。もはや国は多数にわかれ、信仰だけが受け継がれました。過去の歴史すら焼き払って……だからこそ、アタクシたちはここにいる」
ハウコニファーが制御の指輪があるほうを前に手を構える。
指輪の炎がひときわ強く輝きハウコニファーを覆う。
「終わらせるのは、負けじゃない。ここまで苦しんだのならば、朱竜様も自分自身を赦して勝ったことにしていいはず。そのための手伝いを」
私がビームをハチャメチャにもらっている間にハウコニファーはもう片方の手をそい合わせる。
ハウコニファーの周囲に5つの火の光が浮かび……
両腕を強く振ってそわせた手も離す。
すると火が倍化した。
10の火の玉だ。
「……安らぎの滅び、優しき死亡。戦いし者よ、安寧を得ることも勝利としれ」
詠唱の続き!?
そんなものがあるだなんて聞いたことがぎゃあ!?
ビームで体消し飛ばされるかと思った。
耐性なかったら私死んでるよ!
火の玉たちざまるで誘導灯のように5つずつ朱竜の虚像へと繋がるような直線並びをする。
一体何が始まるんだ?
「死滅っ!」
ハウコニファーの体が輝き……
誘導灯へ向かうように走る。
その姿が一気に膨れ上がって。
――それは天から使い。
命を終わらせ魂をすくい取る存在。
大量の翼と金属のような仮面。
身体は服のようでいて鎧。
女性的でいて男性的。
手に持つのは終わりを与える火の灯る木棒。
5つの誘導灯を渡る間に巨大なその姿を表したのは死滅。
うそお。
こんな風になるの?
巨大なその姿であっというまに朱竜の虚像へ肉薄する。
私は呆気にとられてそれを見ていた。
放たれるビーム。
死滅はそれを正面から受け止める。
焼かれる服鎧。
中身が見えないからこそ不気味だ。
しかしその炎は暖かい。
お返しに振るわれた1発。
木の棒だとは思えないような轟音を放ち一瞬で相手が炎に包まれる。
そして。
「消えていく……」
前までの死滅と同じだ。
どんどんと圧縮されるように消えていく。
朱竜の虚像はたった1撃でモヤすら残さず燃え尽きていく。
そして死滅の方も。
火の粉として散っていって力の大部分はどこかに還っていく。
そして1部が寄り集まってハウコニファーになった。
空からゆっくり落ちてくるハウコニファーに意識があるように見えない。
腕を合わせてキャッチした。
「ハコ! ハウコニファー!」
「ん……うん……? 戦いは……?」
「終わったよ、ほら」
ハウコニファーが意識を取り戻したのでおろす。
朱竜の虚像はどこかへと消え去りモヤが消えていく。
これで全て終わったはずだけれど。
「おーい! 霧はおさまったってことは、後は脱出するだけか?」
「うーん……なんかおかしくないかい?」
イタ吉やペラさんも私達に合流した。
おかしいか……
そういえば。
「これで終わったのなら、過去の空間であるはずのここは崩れちゃうはずじゃあ」
「あ、あれ……? まだ霧の気配がある!?」
「えっ!?」
ハウコニファーの声にさらに周囲を見回すが進めそうな道は……
そんな時に。
念話が来た。
嫌な予感がしてすぐに受ける。
『もしもし! 繋がった! まずいぞ、戦場が……! とにかく見てほしい』
『う、うん……ってこれは!?』
私の脳内に念話として送られるのは景色。
おそらくは直接みているものそのもの。
なのに……
周囲にピンクの竜巻。
戦場はその内側。
城の外にしかないはずの渦が大きく広がっている!?
『なにこれ、どうなっているの!?』
『こちらでも原因調査中だが接続が切れた後から竜巻が拡大していた。謎の兵は襲ってくるし、朱竜はここに急行している。夜中なのに休む暇が無いぞ……!』
嫌な予感がする……




