六百十七生目 真実
「これ、もしかしなくとも……全てのはじまりなんじゃあ。朱竜教
の、フォンダター派の、そして、アタクシ達が今争っていることの……」
「多分、そう。朱竜はここで神使を作っていた。おそらくはニンゲンからすると永遠の命にも匹敵するほどに長く燃え続ける力を与えて。朱の大地を灼いていたのは……戦いを全て燃やして、そして勝つため……なんなんだこの時間の規模感……そしてバ……まっすぐ過ぎる作戦は……」
忘れていた。
朱竜は恐ろしさばかりクローズアップされるが蒼竜の同期じゃん。
「今バカって言いかけなかった!?」というハウコニファーの言葉を流しつつ向こうの流れに注目する。
「これで、我が身はいつでも貴方のために……え?」
『なんだ?』
空間が揺れた。
それはこちらの世界のことではなかったらしい。
あの過去に何かが起きている。
空間の揺れはまさしく世界そのものが揺れたかのように感じる振動だ。
ずっと気になっていた時間の渦についても……来るか?
『グッ!?』
「我が神!」
朱竜から大量の霧が噴き出している!?
どこかで見た……というより先程からずっと見えていたもの。
私達の空間だとずっと存在していたものだ。
「桃色の霧……!?」
「お嬢ちゃん、これって……」
こちらでざわざわしだしたが時は無情に進んでいく。
『我は……我は負けてはおらぬぞ! なぜ必勝の神威が暴走を起こしている……!?』
あっという間に霧は暴風になっていく。
こちらに干渉はしないがアルセーラは当時の人物。
一気に押され吹き飛ばされかけている。
「我が……神……!?」
朱竜が必死に何かを抑えようとしているが……
あれはきっと駄目だったのだろう。
一気に景色が桃色に覆われ赤くなり白く飛び……
遠くからアルセーラの悲鳴と朱竜の絶叫が響いた……
「朱竜はきっと、自分の中で負けの行為であることを、自分で踏んでしまったんだ。つまり、頭ではわかっていても、心が……神の力が認められなかった。必勝は負けることで暴走を起こして……この惨事を引き起こした」
私はカメラ……という名前のなんでも見るくんなんでも聞くくん向けに説明する。
それでみんなもなんとなく納得したような声をあげた。
「もう過去の映像再現そのものはただモヤの濃い渦が起こってまともに見えないだけなのが困るけれど……」
「まあ、難儀な能力なのはわかったよ、その必勝ってのさ」
「過去に、神力の概念が矛盾を引き起こして世界に故障をもたらした事例自体は聞いていたんだ。まさかこれだとは思わなかったけれど」
「おじさん、その人脈のほうが気になるな……」
今まさに景色の方は何も見えないしまともに鼻も効かない状況である。
まさか過去の映像がこんな形で私達に妨害を起こすとは……
その後朱竜たちがどうなったか……そしてなぜ未だに焼き続けているのか気になるけれどまず封印が先である。
「とりあえず、このモヤを消すために探るね……よし、こっち」
「どっちだーい?」
「あ、私とハウコニファーで歩きでなんとか行ってみるからペラさんとイタ吉は待機で」
「あいよー」
私はとにかく耳を集中させる。
"見透す目"って壁とかは得意なんだけど気体による空間色で妨害されるのにそんなに強くない。
"千里眼"で必死に正確な視覚情報を探る。
いやあ……ここらへんかなあ?
とりあえずあたりをつけて手を伸ばすとハウコニファーに触れた。
「おばさん?」
「よしよし……いるね。連れてって。障害物とかは見ているから」
「わかったー」
ハウコニファーに引き連れられる形で歩く。
炎の床は不思議と私達を焼いたりはしない。
まあ焼かれたらすごく困るんだけれど。
ハウコニファーが指し示す先をちゃんと視界を飛ばして見る。
これは……
深いモヤで出来た霧の向こう。
全てを覆うその先には。
あまりのも巨躯な残骸があった。
朱竜のような形をとっているが朱竜そのものではなくまるでモヤが固まって石材かなにかでできているかのよう。
なんなんだ……!?
「これが……今の時空をおかしくしている元凶?」
「朱竜様……自体ではないみたいだね。だったらこの死滅の力でっうっ!? 動いた!?」
確かに今この像が動いた!?
地響きが鳴ると共に改めてしっかりと動き出した。
「やっぱり動いている!?」
関節が曲がる生物的な動きではなく首の部分がゴリゴリと周りこちらを見る。
朱竜の虚像とでも言うべきそれは虚ろな瞳でこちらを見つめてくる。
『我が勝利、未だ来ず。汝ら、勝利を報せんものか?』
「悪いけど、こっちは勝ち負けじゃなくて終わらせにうわあっ!?」
今ビーム放ってきた!
目からビームをすれっすれで避ける。
ハウコニファー抱えたままだと少し動きが……
「えっ、えっ!? 今何かが……」
「多分向こうはこっちの言葉理解してない! 攻撃してくる!」
「それなら、あ、アタクシだけで死滅を使うから、おばさんは敵の攻撃を……!」
できるのか……それは!?




